研究課題/領域番号 |
25370292
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
梶原 克教 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (90315862)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カリブ海地域 / 文化論 / ポストコロニアリズム / 英語圏文学 / 表現媒体 / C. L. R. ジェイムズ / 国際情報交換 / トリニダード・トバゴ |
研究実績の概要 |
本年度は、①トリニダードで収集した資料の整理・分析、②西インド大学での資料収集、の2点を研究計画の中心に据えていた。 ①については、その成果を "A Study of Young C. L. R. James and Trinidadian Context in the Early Twentieth Century"という論文にまとめた。本研究課題の目的は、「トリニダード知識人による文化論」が同時期に多出し、しかもそれぞれがトリニダードに限らず英・米・アフリカの知識人に大きな影響を与えることになった経緯とその特徴を追求することにあるのだが、本論文では19世紀末から20世紀初頭トリニダードの歴史的・地域的環境を明確にした点で、意義があるといえる。 さらに、論文で根拠とした資料は、The NationやGuardianのような新聞やThe P. N. M. Weeklyといった政党誌などであり、それらはいまだ電子化されておらず実際にトリニダードで調査することなしでは入手できないものであった点において、補助金を有効に生かした調査成果を得たといえる。 加えて、エリック・ウィリアムズやC. L. R. ジェイムズについて個々の背景を論じた研究はこれまでにもあったが、両者のみならず他の知識人についても共通した背景要素を見いだして論文にした点においても、意義のある成果を生むことができた。 ②については学内業務の関係で8・9月の調査がかなわなかったが、代わりに11月にブラジルのサルヴァドールで開催された国際学会において日本から見たトリニダードおよびカリブ文化に関する発表をおこない、ともすればアイデンティティを軸としがちな米国的カリブ研究との相違を提示することで、今後の研究につながる有益な議論をおこなうことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
C. L. R. ジェイムズとエリック・ウィリアムズに関する文献資料収集は、昨年度まで後者について少し遅れがちであったものの、後者の資料が徐々に電子化されてウェブ上で閲覧可能になってきているため、その遅れは取り戻せている。 いっぽう、研究目的の片輪である「仮装と音楽」に関する資料収集について、前者については昨年度までにトリニダードで十分な資料を入手したが、後者については前者ほどの調査ができなかった。しかしこちらもやはり音源が多くウェブ上で視聴可能となってきたため、論考に必要なサンプルはおおよそ揃っている。 本年度は学内でいくつかの多忙な業務を任されたため、計画していたトリニダードでの2週間の調査をおこなうことができなかったが、代わりに11月に3日間開催された国際学会(15th International Conference on Caribbean Literature)で発表をおこなった。その結果、調査収集した資料を論文の形にしてまとめる際に、論理的視野の広がりを得ることができた。 つまり、資料収集の面で見られる進捗状況の遅延は他の方法で補うことができ、さに考察の領野では予定以上の進展が見られた点において、おおむね順調に進展しているといえる。 上記の結果、最終的な研究目的に即してみると、文化論的には同じ思想を共有しており、はじめは共闘していたジェイムズやウィリアムズが、のちに対立することになった理由について、どこまでが政治的な対立でどこまでが思想的な対立だったのかという点について、本年度である程度の見通しが立ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
エリック・ウィリアムズ、C. L. R. ジェイムズ、マルコム・ナースなど複数のトリニダード知識人による文化論がなぜ世界的な影響力を持つようになったのかという点について、トリニダードが置かれた歴史的・地域的・制度的(とくに教育制度)背景の特殊性という原因を本年度までに突き止めることができた。 しかし、それぞれが重要視する言語文化と非言語文化(視覚文化・音響文化)についても順調に研究を進めてはいるものの、各知識人と具体的な視覚文化・音響文化との関係については、まだジェイムズについてのみ明確にできているだけだ。 それゆえ、今後はジェイムズ以外のトリニダード知識人と視覚文化・音響文化との関わりを具体的に研究する予定である。上記【進捗状況】で記したように、本年度はあらためて昨年度できなかったトリニダードでの現地調査をする必要はないので、これまでに収集した資料を基に、個々の知識人が視覚文化・音響文化を国やカリブ海地域の政治状況とどのように結びつけて考えていたかについて、総合的な考察を加えて最終的な結論を得たい。 平成28年度はすでに「仮装」に関する論集を刊行予定なので、そこで本研究課題の一部の成果を提示し、29年度前半に、本研究課題の最終的な成果をまとめ上げる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用用途自体は研究計画と大きく異なることはないが、昨年度からの繰越金が120,407円あったことと、学内業務のため海外滞在期間が計画より短くなった結果、海外旅費が予定より少額となったために45,096円の繰越金額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題を計画した時点に比べ円安の傾向にあるため、海外旅費の金額が予定より増加しそうなので、その増額分に繰越金額を当てる予定である。
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