(1)交付申請書の実施計画に記していた「国際カリブ学会での発表」を前年度に前倒ししたので、本年度は国内の学会シンポジウム(SES-J/MESA合同大会シンポジウム「クロスエスニックの文学とエコクリティシズム」)で、これまでの研究成果を集約して発表し、それを論文「赤と緑が交叉するところ―カリブ作家にとっての歴史と風景の問題について」(『多民族研究』第10号)として発表した。 そこでは、まずトリニダード・トバゴの初代首相エリック・ウィリアムズやその他カリブ諸国独立時の首相たちが政治的な妥協を経て残した経済的・社会的遺制が、20世紀末から21世紀初頭のカリブ諸国にどのような影響を与えたかという事実を例証した。続いて、本研究課題のもうひとつの軸であるトリニダード出身C. L. R. ジェームズら急進的カリブ知識人たちが文化論・社会論として残した思想史的遺産の継承者たちが、同じく20世紀末から21世紀初頭にかけて、前者に対していかに批判的アプローチをおこない、発展的問題解消を目指してきたかを、とくに「観光」と「環境」の面から例証した。これは、トリニダードの知識人が「1962年の国家独立をまたぐ時期に残した論考を調査すると同時に、それが現在の実践形態に及ぼした影響を分析・考察する」という研究目的に即した研究実績である。 (2)『アダプテーションとは何か―文学/映画批評の理論と実践』という書籍を共著で出版した。担当「アダプテーションと映像の内在的論理 ― 『ノーカントリー』における遅延を例に」では、「映像」と「言語」との関係性を考察して、研究目的として定めた「言語的なもの」と「非言語的なもの」の間にあるメディア性質上の差異を立証した。 (3)コロンビア大学のC. L. R. ジェームズ・コレクションを閲覧して、最終的な研究結果を出すための資料収集と整理をおこなった。
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