研究課題/領域番号 |
25370296
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
田中 孝信 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (20171770)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 19世紀英文学 / ジャーナリズム / イーストエンド / スラミング / 慈善活動 / 汚穢 / 独身女性 / 女同士の絆 |
研究概要 |
19世紀イギリスの文学とジャーナリズムに見られるイーストエンドの表象を探るにあたって本年度は、帝国主義の発展による植民地からの移民の流入と大不況下での失業者の増大に喘いだ80‐90年代を取り上げ、特に、中・上流階級の淑女たちがその最貧困地区で行った慈善活動に焦点を当てた。「家庭の天使」としての役割を押し広げた形でのそうした活動に、彼女たちを駆り立てたのは何だったのだろうか。一義的には憐れみや罪の意識が考えられるが、それだけではないのではないか。そこに、既成の階級やジェンダー観を脅かす無秩序な欲求がなかっただろうか。その問いを解明するために、社会改革家ビーアトリス・ポッター、およびハークネス『ローブ大尉』やミード『貧民街の王女』といった作品中の独身女性たちの活動を詳細に検討した。その結果得られた知見として言えるのは、彼女たちは慈善活動への従事を通して、男性支配からの解放と自己確立を成し遂げようとしていたということだ。さらにそれは、同階級のみならず下層階級の女性たちとの新たな関係の構築にもつながる。男性を排除した、ホモエロティックなまでの女だけの世界を築き上げてゆくのである。淑女たちがイーストエンドという混沌と汚穢の中に身をうずめる行為は、彼女たちに家父長制イデオロギーが規定するステレオタイプ的なものの見方の限界を認識させる。私たちは、無秩序が現存の秩序を破壊することは認めながら、それが潜在的想像力を持っていることを知っている。無秩序は危険と能力との両者を象徴しているのである。スラム街での体験によって彼女たちは、男性のお仕着せではない新たな自分を発見し、社会との関係を再構築する機会を得るのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属研究科機関の校務多忙のため、80‐90年代のイーストエンドを取り上げた新聞雑誌記事にまで十分目を通すことができなかったが、日本ギャスケル協会第24回大会(2012)におけるシンポジウムでの原稿をもとに、イーストエンドにおける中・上流階級の独身女性たちの慈善活動が帯びる重層的な意味合いを探る論文を発表できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は19世紀ロンドンにおける浮浪児への中心世界の心的態度を、文学作品・絵画・写真等の分析を通して探る。特に世紀末のイーストエンドでセツルメント活動を行ったエリート男性たちと貧しい少年たちとの関係に目を向ける。それに必要な資料を閲覧するために大英図書館や貧民学校博物館等を訪問する予定である。
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