19世紀後半から20世紀初頭のロンドンで貧困と犯罪の温床として中・上流階級の関心を引いたイーストエンドが、19世紀全般にわたって文学やジャーナリズムでどのように表象されていたかを、中心世界の眼差しが帯びる両面価値性の観点から分析することで明らかにすることを目的とした。様々なタブーの境界侵犯の可能性を探った結果、この地区に対して憐れみや恐怖のみならず、抑圧された自己の共鳴が見られることが判明した。イーストエンドが持つ「嫌悪の魅力」は、特定の価値コードのもとに一元化されていた現実に本来の多元性を回復させ中心世界の人々に生きているという感情を蘇らせると同時に、彼らの秘めたる欲求をも暴くのである。
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