研究実績の概要 |
本研究課題は、環境保護と観光開発の両立を目指す英国湖水地方の文化的景観が、19世紀の文学観光を通していかにして作られていったかを検証しようというものであった。 平成25~26年にかけては、これまで研究を進めてきた19世紀における英国湖水地方観光の変容とワーズワスの一般大衆への受容の関係をまとめ、_William Wordsworth and the Invention of Tourism, 1820-1900_(2014)として出版した。これと並行して平成25年~27年度にかけては、ワーズワスの作品のうち『ダドン・ソネット』と『逍遥』をガイドブックの詩学という観点から再検討し、ガイドブックに引用されたこれらの詩行が旅行者たちの自然に対する感受性をどのように涵養したのかを明らかにし、論文として公刊した。また、旅行者たちの景観・空間の捉え方の変化を辿るために、鉄道時代・自動車時代黎明期の文学観光の在り様について検証した他、19世紀中葉の文学観光の庶民的広がりについてリサーチを進め、自然環境に対する意識の高まりという観点も織り込んで考察した。これらの成果は間もなく論文として公刊される予定である。 平成28年度は「願掛けの門」という作品をとりあげ、この作品をめぐる視覚表象や旅行ガイドや庶民向け雑誌での受容の変遷について検証し、国際学会で研究発表を行った。また、ワーズワスの鉄道敷設反対に関する言説に見られる旅の美学と自然保護的な考え方が、どのように受容されたのか、その変遷の紆余曲折を辿ることで、それがその後、環境保護と観光開発の両立をめざす湖水地方の文化的景観形成にいかに関わったのかを検証し、国際学会で発表を行った。これらの成果は、現在準備を進めている本の一部に組み込まれる予定である。
|