研究課題/領域番号 |
25370299
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
池田 寛子 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (90336917)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アイルランド文学 / アイルランド語 / 英語文学 |
研究実績の概要 |
「18世紀以降のアイルランド文学におけるアイルランド語の伝統」を扱う本研究の目的は、アイルランド語文学とアイルランドの英語文学の関係性を追及しつつ、アイルランド文学の特質に迫ることである。具体的には、アイルランドの歴史や社会の状況を踏まえた上で、アイルランド語文学の継承と変容という観点から、アイルランド作家による英語作品を選定し、精読する。アイルランド語世界と英語世界の二極化が確立された18世紀以降から現代を視野に入れ、植民地化と脱植民地化を経た「アイルランド文学」が、多元性の尊重に向かおうとする現代社会においてどのような意義を持つかについての深い考察をめざしている。この計画に基づき、ダブリン(アイルランド)に二週間滞在し、資料収集した。研究成果の公表は以下の通りである。 平成26年10月に韓国ソウルのHanyang Universityの招待を受け、“W. B. Yeats and the World of Irish Folklore” というタイトルで研究成果を発表した。11月にはシンポジウム「転換期のメリマン―『真夜中の法廷』の解釈―」においてパネラーの一人として「異界としての『真夜中の法廷』」を発表した。『アイルランド文学:その伝統と遺産』において18世紀のアイルランド語詩を担当し、「第三章 一八世紀アイルランド語詩:この世にはない法廷を求めて - 二つの詩篇に響くアイルランド女性の声」を執筆した。イェイツの初期の劇詩におけるアイルランド語の伝統の位置づけを明らかにし、"The Explorations of Ancient Memories: Shadows of Irish Tradition in W.B. Yeats's The Wanderings of Oisin." としてまとめ、Journal of Irish Studiesに掲載した。ブライアン・メリマン『真夜中の法廷』の解説部第5章と第8章を担当し、アイルランド語文学と英文学の接点を追究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りの調査と学会や研究会などでの発表を終え、論文の出版、投稿、および次の論文の執筆準備、27年度に予定されている学会とシンポジウムでの発表準備に入ることができた。具体的な研究内容の進展は以下の通りである。 アイルランドでの資料収集を行い、その分析・考察・検討の結果を韓国のイェイツ学会主催の国際学会に参加し、発表することができ、アイルランド、中国、韓国、アメリカなどのイェイツ研究者との交流を深めた (2014 International Conference on W.B. Yeats and Reinvention of Poetics in Literature (October 11-1, 2014) Hanyang University Seoul, Korea) 。 共著・共訳『真夜中の法廷』(2014) の解説部ではパーシー・アーランド・アッシャーによる英訳(1926)、フランク・オコナーの英訳(1945, 1959)とアイルランド語原作の比較を掲載したため、その後はシェイマス・ヒーニーの抄訳(1993)キアラン・カーソンの英訳 (2005)との比較を進め、その特徴、背景にある歴史的・社会的事情を明らかにし、その一部を日本アイルランド協会年次大会におけるシンポジウムで発表した。 平成25年5月東北大学で開催された日本英文学会第85回大会のシンポジア第4部門「環大西洋の脱植民地詩学」での発表内容を加筆修正し、論文を完成した。イェイツ初期の劇『キャスリーン・ニフーリハン』にはアイルランド語に根ざしたアイルランドのフォークロアが重要な役目を果たしている。よそ者の追放と愛国的犠牲のプロパガンダという枠には収まらない側面を作品の根幹から浮き彫りにしていくために、本稿では劇『キャスリン』とこの作品を取り巻くコンテクストにおいて “stranger” と呼ばれる、あるいはそう位置づけられる存在の役割を徹底的に検証した。以上の研究は、すべて、アイルランド語の伝統がアイルランド文学にどのような形で寄与しているかを明らかにすることに関わっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度もアイルランドでの資料収集を行い、その分析・考察・検討の結果を以下の学会で発表する予定である。 昨年度同様、韓国のイェイツ学会主催の国際学会(2015年9月)での発表が決まり、Yeats and the Irish Lanauge Tradition というテーマで発表する予定である。 目下取り組んでいるのは、秋のイギリスロマン派学会のシンポジウム「ロマン主義とアイルランド」において「ゲール語文学から見たナショナリズム文学の動向」についての発表を行うための準備である。シンポジウムでは、イングランドのロマン主義とアイルランドの関係、アイルランドの内部のロマン主義、これら二つの方向からロマン主義期のナショナリズムを考える、ということになっている。目下私が注目しているのは、アイルランド語文学およびアイルランド内のロマン主義に見られるアイルランド性とアイルランド民衆の表象および解釈をめぐる問題である。 「イギリスロマン主義」は、アイルランド語の伝統との関係で考えるにあたってきわめて難しい概念である。18世紀アイルランド語文学はイギリスロマン主義とは縁もゆかりもなく、その価値観、ものさしでは測れない、という考え方がある一方で、当時もアイルランド語世界は英語世界、そしてアイルランドの外に開かれており、様々な影響を吸収する傾向にあった、という主張もある。どちらについても、そうあってほしいという期待が関係しており、実情が完全に解き明かされているわけではない。イメージや期待の背後にあるものを探るにあたって、丁寧な資料と作品の読み込みが必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
韓国イェイツ協会のジャーナルの編集委員になったことに鑑み、一度その年次大会に出席しようと計画していたところ、学会に招待され、旅費が支給されたため、旅費が節約された。
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次年度使用額の使用計画 |
予想していなかった新たに手に入れるべき資料が出たためアイルランドの調査滞在を延ばす。
また昨年度以上の学会参加をしていく予定がたっている。
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