「18世紀以降のアイルランド文学におけるアイルランド語の伝統」を扱う本研究の目的は、アイルランド語文学とアイルランドの英語文学の関係性を追及しつつ、アイルランド文学の特質に迫ることである。具体的には、アイルランドの歴史や社会の状況を踏まえた上で、アイルランド語文学の継承と変容という観点から、アイルランド作家による英語作品を選定し、精読する。アイルランド語世界と英語世界の二極化が確立された18世紀以降から現代を視野に入れ、植民地化と脱植民地化を経た「アイルランド文学」が、多元性の尊重に向かおうとする現代社会においてどのような意義を持つかについての深い考察をめざしている。この計画に基づき、ダブリン(アイルランド)に滞在して図書館で資料収集し、またケリー州のアイルランド語使用地区でインタビューを行った。研究成果の公表は以下の通りである。
韓国イェイツ学会による2015 International Conference on W. B. Yeats and Invention of Poetics in Literatureというテーマの国際学会で研究発表を行い、イェイツとアイルランド語の伝統の関係という観点から初期の劇 On Baile’s Strand に焦点を当て、この劇が土台とするアイルランド古来の伝説の様々なバージョンとの比較において検討した。また、イギリス・ロマン派学会のシンポジウム『アイルランドとロマン主義―「国民国家」と文学』[Ireland and Romanticism: Nation State and Romanticism]においては、アイルランド語詩を英訳と共に紹介した18世紀の出版物としては最も高い評価を得ているCharlotte Brookeの Reliques of Irish Poetryを取り上げ、アイルランド語詩とそのBrooke による英訳の比較をもとにした考察を発表した。
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