研究課題/領域番号 |
25370301
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
増田 久美子 駿河台大学, 現代文化学部, 准教授 (80337617)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / 19世紀アメリカ合衆国 / ジェンダー思想 / 家庭性 |
研究実績の概要 |
本研究はアンテベラム期米国の女性作家による作品を中心に、そのテクスト分析を通じて、「家庭性」(domesticity)という概念がいかに19世紀アメリカ合衆国の文化形成に寄与していたのかを検証し、さらに、同概念を包括的に定義しようと試みるものである。 本年度においては、家庭性理論家のひとり、セアラ・ヘイル(Sarah Josepha Hale, 1788-1879)の小説『リベリア』(Liberia; or Mr. Peyton’s Experiments, 1853)を取り上げた。この作品は、従来、ヘイルの植民地主義思想において、北米植民地入植からアメリカ建国までの歴史をリベリアで再演しようとする白人ナショナリズムとして解釈され、また、アメリカ黒人のリベリア入植によって進展する帝国主義的な膨張の根底に、家庭性の思想が見いだされるものとして捉えられてきた。しかし本研究は、植民運動を通して完成されていく白人男性の男性性が喪失の危機から始まる設定のあり方に着目し、これまでの解釈にたいして、次のような新たな視点を提起した。つまり、テクストにおける白人女性の不在の意味と、白人および黒人の男性性の意味を分析することによって、ヘイルの植民主義的なジェンダー思想を解き明かそうとしたのである。 具体的には、白人および黒人の男性性が追求されている過程において、人種的な対照性が露呈される構造分析を試みた。すると、テクストはリベリア植民運動における黒人の男性性の形成を呼びかけつつ、その内実は、白人男性の福音主義的男性性の回復と再生を目論んだものであったことが判明した。こうした手続きをへて、そのような構造がじつは不可視の白人女性たちへの依存によって成立していたという事実をも検証した。 以上の分析結果は、当時の植民運動におけるジェンダー問題の一側面を解明したという点で評価しうるものと考え、論文としてまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の文献資料データベースをもとに、さらに収集された一次資料および二次資料を加えて、データベースを充実させた。それによって、資料分析や先行研究にたいする分析や洞察が円滑に行われ、論文を執筆することができた。 また、2015年11月、米国フィラデルフィアにおいてアメリカ女性作家研究協会の2015年度大会に参加し、研究に関する重要な知見や情報を得ることができた。これにより、今後の研究を進めるうえでも、大いに好影響を与えるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、「家庭性」という「女性の領域および女性の感化力の拡大」にかかわる論点のうち、「女性の歴史記述と市民性」という課題に取り組む予定である。引き続きセアラ・ヘイルという家庭理論家の著作を中心に研究を進めるが、同時に、彼女に影響を与えた初期共和制時代の女性歴史家たちのテクストについても調査する。これらを遂行するにあたり、女性と歴史記述に関連する研究書を幅広く収集し、資料およびテクスト分析を開始する。最終的には論文として執筆する。
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