研究実績の概要 |
この研究課題では、枢密院顧問官ニコラス・ベーコンが大学学寮などに対して奨学金や寄付金という形で与えた庇護の実態と、それによって形作られることになる文人のネットワークについて研究を行った。 とりわけベーコンが文人クライアントを育成するためにケンブリッジのコーパス・クリスティ学寮に設けた奨学金制度に関する一次史料を基に、ベーコンが庇護した学寮の文人や詩人たちの人脈ネットワークを再構築することを目指し、ノーフォーク古文書館及びケンブリッジ大学コーパス・クリスティ学寮古文書館において調査を行った。その結果、ベーコンの寄付金制度設立に関する契約書や覚え書きなどの重要な史料を発見した。 そこで、これらの史料を基にベーコンの周囲に成立していた学寮の文人ネットワークに関する論文 "Corpus Christi College, Cambridge in 1577: Reading the Social Space in Sir Nicholas Bacon's College Plan" を執筆し、Transactions of Cambridge Bibliographical Society 誌上で発表した。 これによって、従来の文学研究者が着目してこなかった人脈ネットワークの広がりや継続性、或いは詩人の創作に対する影響力を検証し、庇護制度の総体を浮き彫りにした点が、本研究の大きな特色である。また本研究は歴史的調査手法をその土台に据え、新しい一次史料の掘り起こしに大きな比重を置いているため、これまでの文学研究ではカバーし得なかった庇護関係の実態に迫ることができたと言える。
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