研究課題/領域番号 |
25370305
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
佐々木 真理 実践女子大学, 文学部, 准教授 (30297436)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / 女性作家 / 教育 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
平成26年度は、イーディス・ウォートンの時代に変容した女性知識人のあり方を検討し、その変容がウォートンに与えた影響と意義を明らかとするために、以下の2つの点から研究を行った。1点目は、より広い視点から考察することが可能となるように、ウォートンと同時代のさまざまな階級や人種の女性たちがどのような教育を受け知識を身につけていったのかについて検証を行った。その結果、19世紀後半から20世紀初頭のアメリカ社会においては、女子高等教育が普及し、さまざまな女性たちが活躍する領域が広がり、ウォートンと同じように社会で活躍する女性の知識人たちが台頭したが、当時の反知性主義の風潮と根強く残る女性らしさの規範に対抗するために、活動するにあたって女性たちが戦略を考える必要があったこと、そしてその戦略の一つとしてウォートンの作品が分析できることがわかった。さらには、19世紀末から20世紀はじめにおける、大量生産・大量消費社会へのアメリカ社会の変容が、女性たちの自己表象に大きな変化をもたらし、その結果、ウォートンの作品のヒロイン像にもその軌跡を見出だすことができるという結論にいたった。2点目は、同時代の女性知識人であるヴァーノン・リーが得意とし、ウォートンも数多く発表することとなった幽霊を題材とするフィクションに焦点をあて、その物語における女性の表象を分析することで、リアリズム小説家として知られるウォートンの隠された一面と思想の一端を考察し、世紀末の超常現象を扱った小説のブームというより広い背景のもとでウォートンを考察する視座を獲得することにもつなげた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
女性知識人としてのウォートンの成長と変容を考察するにあたって、同時代の女性知識人たちがどのような教育を受けてきたのか、また、アメリカ社会において、女性が高等教育を身につけ知識や思想を培っていくことがどのように受容されていたのかというより広い観点からの検証を試みることができ、さらには、同時代のアメリカ社会の根本的な変化が女性の表象に大きく関わっているという考察を導き出したことから、当初の計画以上に本研究が深い射程を備えていることが明らかとなったため。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成27年度においては、以下の2つの点から研究を行いたい。まず、ウォートンに対する現在の評価は、ウォートン自身が執筆した自伝に負うところが大きいことをふまえ、生前は発表されなかったLife and Iと、ウォートンが生前に周到に準備し出版した自伝A Backward Glance(1934)を比較することから始めたい。2つの自伝を比較し、そこから削除されたあるいは抑圧された要素から読み取れるものを解析し、ウォートンの生きた時代にあって女性の知識人がどのように変容したのか、その変化に対してウォートンはどのように反応したのか、その後のウォートンの軌跡にどのような影響を持つことになったのかを明らかとしたい。次に、同時代の知識人として経歴に共通点の多いヴァーノン・リーとウォートンを比較し、リーの伝記やリーとウォートンとの書簡も分析しつつ、リーとの比較研究から明らかとなった要素をまとめるために、リー以外の知識人たちとのウォートンの交友の軌跡を追跡していく。同時に、当時のウォートン以外の女性の知識人たちの活動と思想を考証することで、本研究の到達目標をさらに深いものとしたい。これらの調査及び分析から、ウォートンの思想と作品の背景に流れる、同時代の思想と文化の持つ意義がよりいっそう明らかとなるだろう。それによって、ウォートンが見た知識人の在り方とその変容、あるいはそこからの脱却がウォートンの作家としての自己形成と経歴、さらには作品の変容とその思想的背景へとどのように関わっているのかを見出していきたい。
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