平成27年度は、イーディス・ウォートンの時代に変容した女性知識人のあり方を検討し、その変容がウォートンに与えた影響と意義を明らかとするために、以下の2つの点から考察を行った。1つは、20世紀初頭におけるアメリカ社会の変容の中で、19世紀後半から20世紀にかけての女性作家の活躍したジャンルのひとつである地方主義文学におけるヒロイン像と、ウォートンの作品におけるヒロイン像とのつながりと変化を比較した。その結果、消費社会が発展する中で、女性の力として消費する力が特化されていき、その力が知性の欠如と連動して表象されていることを確認した。ウォートンは作品において、20世紀までの女性の知性に対する批判を考慮し、新たな女性の力としての経済力の表象を知性の欠如と連動させることで、知性とジェンダーの交錯する地点に潜む問題を明るみに出していることがわかった。2つ目は、ウォートンの作品の中でも特に短編小説に焦点をあて、語り手のジェンダーが作品構造とテーマにどの様に関わっているのかを考察した。それによって、男性の知識人が語り手の作品におけるホモセクシュアルな絆と欲望の抑圧が、女性が語り手の作品における女性同士の絆の偶発性と親密さと対照的に表象されていること、そのような視点は、世紀転換期という、女性と知性の関わりが変容を迫られている時代にあって活躍したイーディス・ウォートン独自の視点であるという結論が得られた。
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