研究課題/領域番号 |
25370311
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
松本 靖彦 東京理科大学, 理工学部, 教授 (10343568)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ディケンズ / トウェイン / 著作権 |
研究実績の概要 |
本年度は、ディケンズに劣らず特筆すべき形で著作権問題に関わった作家マーク・トウェインについて調査をすすめ、その成果に基づいてトウェインとディケンズを著作権問題の観点から比較した論考を、2014年6月21日に明治大学で開催されたディケンズ・フェロウシップ日本支部と日本マーク・トウェイン協会合同大会のシンポジウム「『アメリカ紀行』を手がかりに」において口頭発表した。 その発表の際に質疑応答を通して、また当日の参加者との会話の中で得られた指摘や疑問点をもとに、当日の発表原稿に修正・加筆を施した論考を作成した。同論考は『マーク・トウェイン研究と批評 第14号』(南雲堂)に掲載予定である(pp.2-10.)。 両者を比較することで、それぞれの作家・表現者・経営者としての特質も明らかになる一方で、本研究で扱うべき所有権問題の焦点も絞れてきた。 アメリカで横行する自作の海賊版に業を煮やしたディケンズは、1842年の第一次訪米時、英米間の国際著作権協定締結を求めたが、現地のメディアから手酷い攻撃を受け、成果を出すことができずに終わった。しかし、彼は1867-68年に行った全米公開朗読ツアー (第二次訪米旅行)においては、海賊版の被害を受けることなく自分のauthorshipを独占的に発揮することができた。 一方、トウェインの場合は、自分のauthorshipを最も生産的かつ見栄えの良い形で発揮することを求めていたのであり、状況に応じて著作権という制度への距離や活用方法が自然と変化している。 いずれの場合も、自らの所有の形態をどうマネジメントし、デザインするかという問題が、作家・表現者としての進化に直結していると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.研究を発展させ、新たな論文を口頭で発表することができ、その成果を2015年5月刊行予定の『マーク・トウェイン研究と批評 第14号』掲載論文としてまとめることができた。
2.大英図書館にて、本計画の考察上非常に示唆に富む有益な資料を(複写の形で)複数入手することができた。それらの資料は、大英図書館閲覧室(reading room)内のPCにおいてのみ利用可能なカタログにアクセスした結果、検索可能となったものであり、本研究が交付を受けている科学研究費補助金を利用した国外資料調査活動の大きな成果といえる。
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今後の研究の推進方策 |
ディケンズは人が物を所有すること、ならびに人が人を所有することの問題性を鋭く指摘したジャーナリスト・作家であるが、今後は同時代のアメリカ人作家、20世紀の英国人作家とも比較しつつ、研究の焦点を、著作権問題からより広い意味での所有、それも人間が人間を所有することの考察・分析へと移していきたい。ある時期までは果敢に奴隷制を糾弾していたディケンズが、やがて熱が冷めたかのように奴隷制に対して沈黙し、果ては容認するかのような言動をみせた理由を、倫理的な価値判断に依らずに(倫理的、道徳的妥協という説明で片付けずに)、極力「所有」の観点から説明することを試みたい。そのためには、今後は文学研究以外の分野の文献も調査し、考察・分析の理論的支柱を確かなものにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当研究代表者の計算ミスにより、残額(32,130円)をいくらか超過する価格の研究資料(セット物書籍、32,400円)を発注してしまった。本研究補助金は基金による交付金であり、他予算との按分はできないため、科研費での購入は難しいことを知った。資料自体は研究に有益なものであるので、購入自体は取り消さず、その資料の購入には科研費を使用せず、別予算を充てることとし、残額は次年度に持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
5万円未満の研究資料(セット物、あるいは単体の和文・英文研究書)の購入のために使用する予定である。
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