研究課題/領域番号 |
25370313
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
丹治 愛 法政大学, 文学部, 教授 (90133686)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ブラム・ストーカー / 『ドラキュラ』 / 吸血鬼 / ヒステリー / 催眠術 / 精神分析学 |
研究実績の概要 |
世紀末の心理学は、ヒステリーを精神の身体化として解釈し(たとえばフロイトは、ヒステリーを、「抑圧された」精神的外傷が身体的症状をともなって回帰してきたもの(「抑圧されたものの回帰」)と定義している)、また、催眠術をその診断法ならびに治療法として科学的研究の対象としていた。フロイトの「ヒステリー現象の心的メカニズムについて」(1893)を知っていた可能性を指摘されているストーカーは、ドラキュラの被害者となった女性の症状を、あたかもヒステリーの症状であるかのように、そして催眠術を施された彼女を霊(幽霊)と通信する霊媒であるかのように描写している。同時代のヒステリーと催眠術のテクストを『ドラキュラ』と関連づけることによって、その描写の意味をさぐった。 その主題で『ドラキュラ』論を書くには至っていないが、その理由のひとつは、『文学批評への招待』というタイトルの放送大学の印刷教材を編集・執筆することになったからである(出版は2018年4月1日)。しかしフェミニズム批評をあつかったその本の一章で、フェミニズムとの関連で(短いながら)『ドラキュラ』における女性表象をまとめることができた。ミーナとルーシーをとおしてあらわれるストーカーの女性表象が、いかにヴィクトリア朝の家父長制的イデオロギーを反映したものであるかという、あまり独創的ではない論文ではあるが、それを成果のひとつとして挙げておきたい。 そして来年度は、テレパシーというもうひとつの心霊現象と平行して、ヒステリーと催眠術にかんする読み残している必読の一次資料を読んだうえで、その観点からの『ドラキュラ』論をできるだけ早く完成させたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上でも書いたが、放送大学印刷教材『文学批評への招待』の編集および4章の執筆を書くことになり、その分、ヒステリーと催眠術という観点からの『ドラキュラ』論を書くことができていない(フェミニズム批評から『ドラキュラ』をあつかっているので、「やや遅れている」程度と判断している)。
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今後の研究の推進方策 |
『ドラキュラ』のなかにヒステリーと催眠術というモチーフが意識的に描きこまれていることはすでに証明できるところまで来ていると思うが、それがどのように新しい『ドラキュラ』解釈につながるかについてまだ見えていない。『文学批評への招待』の担当分は書き終えたので、これからはその点を明らかにして遅れを取り戻したいと考えている。 来年度の主題であるテレパシーについての資料も読みながら、ドラキュラという存在が同時代の無意識研究とどのように関連しているかをいま少し考えてみたうえで、来年度中には新たな独創的な『ドラキュラ』論を書き上げたい。 また、ほかの研究も兼ねて、ロンドンに資料調査に行くことも考えている。世紀末の心霊研究・無意識研究について、ストーカーも資料調査したという大英博物館(大英図書館)での資料調査がもたらしてくれる成果を楽しみにしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
来年度、他の研究(イギリス・ヘリテージ映画研究)の都合でイギリスに資料調査に出かけるが、それにあわせて、ロンドンの大英図書館(と『ドラキュラ』ゆかりの土地)での資料調査と資料収集を計画し、そのためにイギリスにいるうちの4日ほどを『ドラキュラ』研究のために用いたいと考えるようになった。そのために残した。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度8月から9月にかけて、他の研究の都合でイギリスに出かけるので、滞在を4日ほど延ばして『ドラキュラ』の資料調査をする。航空運賃の片道とその分の滞在費に支出する予定である。
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