研究課題/領域番号 |
25370320
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
廣田 園子 京都女子大学, 文学部, 准教授 (30368550)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 英米文学 / イギリス / インターテクスチュアリティ |
研究実績の概要 |
本研究は、今日の文学・文化研究における最も重要な批評概念の一つであるインターテクスチュアリティを軸に、20世紀を代表する英国人作家ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』 (1925)を巡るウルフ本人及び後世の作家たちによる「変奏」の各テクストの意義を検証することが目的である。 平成26年度における研究の中心は、ウルフの他の主人公には見られない様々な変奏の短編と共に、クラリッサ・ダロウェイが初めて登場する『船出』をも再検証することで、後世の作家に改変の欲望をかき立ててやまない『ダロウェイ夫人』の所謂「オリジナル」の成立過程を考察することを目指すことにあった。本論文は、現在推敲の最終段階にある。 更にマイケル・カニンガム作の『ジ・アワーズ』の中で作者が如何にポストモダニズム的パロディとは異なる形で「現代版クラリッサ」の一日を提示しているかを検証し、ウルフ、カニンガム、そして作中の人物リチャードという三人の作家に異なる形で「支配」されるクラリッサの映画版における表象についても取り上げた、昨年度から引き続き考察中の議論を、第34回日本ヴァージニア・ウルフ協会年次大会のシンポジウム「メタモダニズムとは何か」において講師として発表した。またウルフのエッセイと小説とのインターテクスチュアリティを検討する中で、『ダロウェイ夫人』と同時期に執筆されたエッセイ「病むことについて」と本テクストとの連関についての考察を論文にまとめ、『英語英文学論輯』第14号に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究として計画されていたとおり、『ダロウェイ夫人』の所謂「オリジナル」の成立過程を検証するために、『船出』を初めとする関連の諸作品について考察することができた。更に当該テーマに深く関係する日本語論文一編の発表に加え、学会においてシンポジウムで口頭発表を行い、メンバー及びフロアと有意義な意見交換を行うことができたという実績から、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度にあたる平成27年度においては、『ダロウェイ夫人』では脇役に留まっているダロウェイ夫人の保守的な夫を主人公に据えた Robin Lippincott 作の Mr Dalloway (1998) について検証する予定である。クラリッサ・ダロウェイの夫を同性愛者と設定した本作は、ウルフ研究においてあまり大きく取り上げられることはなかったが、例えば文学キャノンの「翻案」の古典とも言えるJean Ryesの Wide Sargasso Sea (1966)と比較検討を試みることで、本作が『ダロウェイ夫人』の再解釈に繋がり得る変奏を提示しているか否かを考察することを目指す。そして『ダロウェイ夫人』を巡る変奏のテクストについて総括し、発表し得る形で纏め上げ、単著研究書としての出版を目指す。
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