研究課題/領域番号 |
25370322
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
松岡 信哉 龍谷大学, その他部局等, 准教授 (50351333)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自然の汚染 / 自然の制御 / 核表象 / エコフェミニズム / 産む性 |
研究概要 |
文学作品の自然表象に現れる制御と汚染のテーマについて、本補助事業一年目である今年は、Don DeLilloの諸作品、および大田洋子、原民喜など日本の原爆文学を精読し、比較・考察を行った。その成果は2013年度日本英文学会関西支部大会における研究発表「化学物質/放射性物質による汚染の表象の比較文学的考察」において公表した。発表では、日米のテキストにおける放射性物質、あるいは化学物質の表象を検討し、1)生命の基盤となる生物・無生物ネットワークの毀損、2)持続的な内部からのダメージ、3)環境の健全性への疑心暗鬼がもたらす日常生活の瓦解、という三つの共通点を指摘した。 またFaulknerのAs I Lay Dyingを取り上げ、女性キャラクターAddie Bundrenを中心に、彼女の自然、または動物との関係を論じる研究発表を行った。この発表では、男性から産む性として規定され、暴力的に自然の側に置かれたAddieが、その遺言を通して男性たちを自然・動物化することによって復讐を目論む物語として、テキストをエコフェミニスト・アプローチに基づいて解釈した。この論考は関西フォークナー研究会例会にて「抑圧される女性=自然の反逆:エコフェミニズムの観点からAddieのふるまいを考察する」と題して発表した。 その他には、サステナビリティ学として文学研究を位置づけようとする研究ノート「持続可能性の概念と英米文学研究のインターフェイス――サステナビリティ学のための文学批評への一考察」、またアメリカのヒッピー的文学作品『禅とオートバイ修理』における、仏教とサステナブルな自然・世界との関係について論じる「『禅とオートバイ修理技術』における自己と環境倫理--仏教とアメリカのカウンターカルチャー」の二本の論考を上梓した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画においては、一年目に「自然の制御」のテーマ、二年目に「自然の汚染」のテーマについて主に研究を進める計画であった。研究実績の項において示したように、一年目の研究成果として「汚染の言説」について扱った研究成果の公表が先行している。しかしながら、これに並行して、FaulknerのAs I Lay Dyingの自然・動物表象をエコフェミニスト・アプローチに基づいて解釈する研究発表を実施済みであり、この発表は「自然の制御」のテーマを論じたものである。後者の研究発表で得た考察をベースに、目下Zora Neale HurstonのTheir Eyes Were Watching Godにおける女性キャラクターJanieの自然との関係の考察、およびFaulknerとHurstonのこれら二作品の比較対照作業を進めている。研究成果は海外の学会での研究発表で公表することを計画しており、目下proposalを作成中である。 以上のように、研究計画は、おおむね当初計画通り順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
補助事業二年目は、FaulknerとHurstonのテキストにおける女性キャラクターに注目し、その自然との関係を論じてゆく。これらの作品では自然のメタファーが、男性から搾取される産む性としての女性という、社会からの強制的規定と関わって機能している。自然に近い存在として見られる女性はリソースとして搾取される存在であり、女性キャラクターたちはこのような強制的規定に何らかの仕方で抗おうとしている。本年度中にまず日本アメリカ文学会北海道支部例会でこのテーマについて研究発表を実施し、さらに考察をすすめて海外の学会でも発表を行いたいと考えている。 さらに補助事業一年目に実施した研究発表「化学物質/放射性物質による汚染の表象の比較文学的考察」を、汚染の言説の解析としてさらに進展させたい。具体的には、DeLilloの他作品を考察の対象に加え、また大江健三郎のテキストもそこに加えることによって、取り扱う範囲を拡大したい。研究の成果は国内外の学会での発表を計画している。
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