研究課題/領域番号 |
25370324
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 奴隷貿易 / アメリカ / 国際研究者交流 |
研究概要 |
2013年度の研究では、合計2回のハーバード大学への研究出張をした。第1回目は13年秋と、第2回目は14年の春である。その主な目的は、私の研究分野である黒人奴隷貿易に関する講義と意見交流会に参加することであり、それらは10回以上に及んだ。これらの講義は、ハーバード大学所属のハッチンズセンターによって主催された。 そのうちの3回の講義はコロンビア大学のロバート・オミーリー教授によるアフリカ系アメリカ人の芸術文化についてであった。それらはロックレクチャーシリーズと、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのデイビット・ビンドマン名誉教授が主な参加者である学会であった。ビンドマン名誉教授のシリーズ著であるImage of the Black in Western Artの第5版目が、芸術文化を通して奴隷貿易を新たな視点から見るという物であり、私の研究に関係するものであった。さらに私自身の奴隷貿易への理解をより向上させるため、黒人に関する記録文書を元にした、ハッチンズセンターの美術資料もまた利用している。最後に、ラモントとワイドナー記念図書館でハーバード大学の貴重な研究資料を得るために、多くの時間を過ごした。 私にとってアフリカ系アメリカ文化・歴史について深く研究することは、3つの点でとても有益と言える。まず1つは、この分野で著名な学者の話を聞くことによって、私の研究に新しい着想と見解を与えてくれる点である。2つ目は、同じ分野を研究しているハッチンズセンターの研究者やハーバード大学のアフリカ・アフリカ系アメリカに関しての研究者たちと共に研究できることである。また、有名なハッチンズセンターのFellow Programに将来的に応募することを検討中である。3つ目は、ハーバード大学図書館の研究利用者カード使うことによって、論文執筆に必要となる貴重な学術的な資料を集めることができることである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハーバード大学への研究出張は、私の研究の飛躍に大きく貢献した。私が参加した講義や意見交流会では、新たな研究観点や理解を見つけることができた。オミーリー教授の3回の講義とビンドマン教授の学会は、絵画を通した奴隷貿易の理解についてであり、私自身の興味があるところである。これらの研究出張によって、It Is Not Easy to Talk About the Middle Passage: Issues of Representationを執筆し、筑波大学アメリカ文学会からの出版誌「アメリカ文学評論」の2014年第24号に掲載された。オミーリー教授とビンドマン教授の講義に加え、リサ・ロウ教授の意見交流会The Intimacies of Four Continentsでは、奴隷貿易産業の影響で大陸を移動することになったすべての人、文化、社会的階級がグローバルな副産物としてどう捉えられているかという点で、自身の研究で考えるところと一致するものがあった。実際に、これに関連する論文Patriotism in Charles Johnson’s Middle Passage (1990)を執筆しており、学術雑誌論文出版社であるアメリカンクォータリーで査読されている所である。この論文は、現在の私の研究で取り上げているイデオロギーの問題を考えるという点で、より大きなプロジェクトの中心的存在になる可能性がある。 上記で述べたが、多くの同じ研究分野の研究者に会えたこと、重要な資料を集めることができたこと、いくつかの論文を執筆することができたことを考えると、総合的に私の研究は順調に進んでいると言える。しかしながら、限られた時間の中で研究をするにあたり、他の業務と並行することは時に難しいと感じることがあるが、今年度は研究の進行を重要視するため、スケジュールをより効率の良いものにしたいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は、大きく3つの目標からなる。1つ目は、1992年度のBarry Unsworthの歴史的小説部門で受賞したSacred Hungerについて執筆中の論文を書き終えることである。この論文を書くにあたって、コミュニティーの概念に焦点を当て、その為には歴史、人類学、哲学の分野においても更なる理解が必要になる。2つ目は、この論文を新たな本の1章とする計画である。今現在、その本は3つの章で構成する考えである。2つ目の章はチャールズ・ジョンソン氏のMiddle Passage as Middle Passageについて、この独自の痛烈で滑稽な特徴を生かしながら、コミュニティー論についても考察していきたい。このMiddle Passageでは奴隷船という小さな世界の中で、奴隷、船員、船長がどのような関係を築いていたのかよく表されている。最後の章では、カリル・フィリップ氏の旅行談Atlantic Sound(2000)とエドアルト・グリサント氏のPoetics of Relation (1990)を取り扱う。これら2つの作品は、奴隷貿易が残したもの、特にその中で生まれたコミュニティーについて表している。2014年の秋頃には、この論文計画を出版社に提出したいと考えている。最後に、2014年秋頃か、2015年春頃に海外から研究者を招待し、奴隷貿易についての学際的な学会を開催したいと思っている。この学会の目的は、奴隷貿易についての非常に異なる視点と向き合い、日本での奴隷貿易研究の発展を促進させることである。さらに日本人の研究者2名を招待し、私を含めた海外の研究者との、奴隷貿易についての有意義な意見交換を望む。この学会の成果によっては、いくつかの奴隷貿易についての論文を編集する可能性がある。
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