研究実績の概要 |
「ピューリタン作家」と言われて久しい19世紀アメリカのナサニエル・ホーソーンのカトリシズムへの関心は本研究申請時に比して急速に認知されてきた。しかし全体として十分に解明されたとは言い難い。へスターの進歩的自由思想と宗教的熱情の漲るカトリックの言説は作品舞台である17世紀前半の歴史的コンテクストの中でなく、作家の生きた19世紀半ばのニューイングランドの現実の中で捉えられ、ホーソーンの時代錯誤とみなされがちである。しかしホーソーンのテクスト理解にはさらに17世紀及びそれ以前からのヨーロッパの宗教事情の把握が不可決である。たとえば、17世紀の対抗宗教改革で、布教のためカトリック側が好んで用いたエンブレムの伝統がある。ホーソーンのテクスト全体に頻出する「Heart」が、「心」という目に見えない抽象概念と、「心臓」という目に見える具象としての意味を同時に持つことが多いことを、図像と聖書を用いて検証し,2014年度のアメリカ文学会関西支部総会の講演と『英文学研究』(2016)支部統合号特別寄稿論文で発表しておいた。 これを基礎に、本研究課題「『緋文字』にみるカトリシズム」に沿って研究を続けた。2017年度日本英文学会全国大会招待発表「Dimmesdaleを読み直す」では、1640年前後の英米の英国国教会とニューイングランドのピューリタンをめぐる宗教的背景に注目し、『緋文字』第12章の謎めいた幾つかの光を分析する。17世紀のある特殊な期間の特殊な情報をホーソーンがいかに入手したかを、彼の『英国ノート』の記述と彼の参照したであろう19世紀当時の雑誌記事から導き出した。その際、文字資料のみならず、図像資料をも用いた。この発表の延長線上に、2017年度九州ホーソーン協会特別講演「ホーソーンの星と手袋」が来る。同じ『緋文字』第12章の赤い流星と手袋の謎を考察した。゛
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