本研究の最終年度に当たり、当初の目的である近代初期英国においてバンケット・トレンチャー(デザート用装飾木皿)が持つ社会的文化的意味や役割を包括的に調査・研究し、英国ルネサンスの宴会様式への理解を更に深めた。 まず、4月に東京で開催されたエンブレム研究会例会に出席し、バンケット・トレンチャーにおけるエンブレム的要素について研究協力者と専門的意見交換を行った。7月には、天理大学公開講座「地域研究への招待」において、「越境する芸術/食文化:英国ルネサンスのデザート用木皿にみる移入・伝播の過程」と題して、これまでの研究成果を一般聴衆に公開した。9月には、主にロンドンのヴィクトリア・アルバート美術館、大英博物館においてバンケット・トレンチャーを実際に調査し、デジタル記録を収集した。1月には、今回の研究成果の一部を含めた、シェイクスピアと宴会研究を総括する書籍『《シェイクスピア》と近代日本の図像文化学:エンブレム、ジェンダー、帝国』を金星堂より出版し、広く成果を公開した。3月には、延期になっていたNY出張を実施し、主にメトロポリタン美術館において収蔵されているバンケット・トレンチャーを実際に調査し、デジタル記録を収集した。 発表や調査を通じて国内外の研究者と連携し、また英国や日本の図書館で資料調査を行うことにより、資料のデジタルアーカイブ構築のための研究資料を英米両国において収集し、その表面に描かれた図絵とテキストの分類、分析を行い、その使用目的と方法、そして意味を明らかにし、平成21~23年度の基盤研究(C)をさらに広範に展開することができた。本研究では、英国各地の博物館やカントリー・ハウスに収蔵されるものだけでなく、当時米国に持ち出され、博物館等に保存されている資料を統合し、整理・分類することにより、バンケット・トレンチャーの文化的意味と使用法を英米両国にわたり総合的に分析した。
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