研究課題/領域番号 |
25370329
|
研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
阿部 曜子 四国大学, 文学部, 教授 (60294732)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | グレアム・グリーン / 冷戦下の文学・映画 |
研究実績の概要 |
本研究は、グレアム・グリーンの映画やフィクション、新聞・雑誌への投稿記事を分析することで、第二次世界大戦後から冷戦前期の政治的混迷期におけるメディアの力学と文学のインタラクティヴな関係を考察するものであるが、平成26年度は、前年度にテキサス大学オースティン校、ハリーランサムセンターで収集した資料を分析し、「映像テクストとしての『第三の男』―第二次世界大戦後のポリティクスの中で読み解く―」という表題の論文としてまとめた。(『四国大学紀要』人文・社会科学編 第43号 2014年12月) ハリーランサムセンターに収容されている、映画 The Third Man(1949年)のアメリカ側のプロデューサー、セルズニックのメモやグリーンのエージェントとの間で交わされた書簡などの貴重な資料(グリーン・コレクションやセルズニック・ファイル中に保管されている)が示しているのは、この作品が英米のコラボレーションによるトランスアトランティックなものであることや、グリーンがこの作品によって「戦後のカルチュアル・ポリティクス」という新たな地平を築きあげることができたということだけではない。資料を読み込み、映像テクストとしての『第三の男』を詳細に分析することによって浮かび上がってきたのは、①緊迫した世界情勢や冷戦構造が形成されるプロセスの中に見られる米英の複雑な力関係、②世界のリーダーとなり覇権国家の土台を築きつつあるアメリカのハリウッドを中心とした文化的側面(映画についての国民意識や世論、観衆の反応など受容の問題も含めて)、③映画という映像メディアが潜在的に持つ政治性や大衆性、④時代背景として見えてくる、あるいは制作プロセスにまとわりつく政治的な状況をもフィクションの中に織り込むグリーンの意匠、などであった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度にテキサス大学のハリーランサム・センターで集めてきた資料を、平成26年度は分析し、予定通り論文としてまとめることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は時代を進め、1950年~60年代半ばの冷戦初期・中期におけるグリーンの作品その他の言説に焦点を当てる。1950年代の中頃より、世界情勢は東西両陣営の断続的なデタントを含みつつも、軍事的には大国中心の対峙状態の固定化が進みつつあり、キューバやベトナム等第三世界への米ソ介入が尖鋭化しつつあった。このような状況下でのグリーンが新聞や雑誌に寄せた記事、エッセイなどを、国内外で可能な限り収集し、分析を行い、それらがイデオロギー優先の時代的・社会的背景を持つメディアの中でどのように機能していたかを考察する。
|