グレアム・グリーンの独自性は、これまで注目されてきたような異端的なカトリシズムばかりではく、映画や新聞等の大衆メディアへの強い関心とその関わり方にもある。本研究は、グリーンが創作の傍ら、多くの投書や記事を新聞・雑誌に送り、また、英米の映画界に深く関与し、反米・反権力に貫かれた言説空間を形成していったことに着目し、文学とメディアのインタラクティヴな関係を、メディアの力学という文化史的な文脈の中で考察するものであった。英米で収集した資料等を分析し、第二次世界大戦後の政治的混迷期を射抜くグリーンの鋭い眼光が、同時にカルチュラル・ポリティクスにおけるメディアの重要性を捉えていたことを明らかにした。
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