研究課題/領域番号 |
25370330
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州共立大学 |
研究代表者 |
中島 久代 九州共立大学, 経済学部, 教授 (90227778)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 英米文学 / バラッド / ナショナル・アイデンティティ / Edwin Muir / George Mackay Brown |
研究概要 |
1. Muirのモダニズムとナショナル・アイデンティティ: 17世紀のバラッド・コレクションが一丸となって指向したネイション=独自文化の確立の希求とは異なり、「うた人トマス」をモチーフとした18・19世紀のスコットランドのバラッド模倣詩が示していたのは、そのモチーフの曖昧性を了解した上での意図的なアイデンティティ擁護の姿勢や、詩人個人のアイデンティティ確立の葛藤の投影としてのナショナル・アイデンティティへの懐疑の姿勢であり、スコットランドのバラッド詩におけるアイデンティティ表象の多重性という特色が再認識された。同じモチーフを使ったMuirのバラッド詩“The Enchanted Knight"は、ロマン派詩人を介しての変質したトマス像を題材とし、モチーフとテーマのゆらぎや曖昧さを特色とするが、Muirのトマス像は詩人のモダニズム指向の反映であり、この作品は、スコットランド文学のモダニズムを通しての20世紀初頭のナショナル・アイデンティティの確立の模索に歩調を合わせたものとみなすことができる。Muirの「うたびとトマス」のモチーフを変質したバラッド詩のモダニズムとナショナル・アイデンティティの希求、および、アイデンティティ表象の多義性について、まとめの論文の投稿審査中である。 2. その他の関連する成果(本課題の成果としては登録しないもの): (1) Mother Gooseのテキスト編集と担当作品の解説において、口承伝承から出発したマザーグースと伝承バラッドおよびバラッド詩とのテーマ的な関連に言及した。 (2)『イギリス文化事典』(丸善、2014年10月出版予定)においてバラッドの項を担当し、スコットランドの伝承バラッドがナショナル・アイデンティティ探求としてのバラッドの模倣詩へと展開するという内容も含めて、バラッドの特色をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ナショナル・アイデンティティという社会学用語を慎重に使いたいと思い、アイデンティティ、ナショナル・アイデンティティ、ナショナリズムの概念の区別と、それら3つの概念が内包するトートロジカルな点について、再度確認の意味で関連情報を読み進めた。同時にモダニズムの概念を確認しながら、Muirのバラッド論も研究も平行して進め、大きなテーマ2つとバラッド詩の関連付けに時間をとり、結果として論文の投稿が大きく遅れることになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成26(2014)年度の研究スケジュールは、当初の予定では、G. M. Brownとバラッドについての研究に着手する予定であったが、Muirとモダニズムのめどがたったのが遅れたため、結果として半年ほど遅れてとりかかることになる。研究予定内容を精査し、予定していた研究視点(C):「MuirからBrownに引き継がれたもの」は、(g):「バラッド評論家としてのMuirとバラッド詩人としてのBrown」、および(h):「Brownのバラッド的表現とモダニズム」の項に含めて言及できると予想し、視点を合理化する。また、エフォートの配分比率を高めて、研究を合理的に行なうこととする。
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