研究課題/領域番号 |
25370331
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
三宅 敦子 西南学院大学, 文学部, 准教授 (10368970)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 19世紀 / イギリス / 英文学 / 文化史 |
研究実績の概要 |
H26年度は以下の研究を行った。 (1)昨年度末に大英図書館に出張し収集した資料(Oxford大学Bodleian Library所蔵の18世紀以降の広告資料を集積したデジタルオンラインデータ―ベースJohn Johnson Collectionに収蔵されている広告資料)を分析し、広告によるブランディングに成功したといわれる英国の製菓会社Cadbury'sの広告の変遷についてライバル社J.S.Fry&Sonsの広告と比較・考察した。その研究結果については以下の雑誌論文欄に記載する研究ノートにまとめた。 (2)本研究の対象であるH.G.ウェルズの小説_Tono-Bungay_は、下層中産階級の商人が商品広告の力によって成り上がり没落する話である。主人公の叔父ポンダレヴォーは過大広告によって作り出した自作のインチキ強壮剤の一大ブームでもうけ、田舎で薬局を経営する薬剤師から零落した貴族のお屋敷を買うまでに成り上がる。しかし旺盛な消費行動だけでは本当の貴族にはなれず、あぶく銭で築いた財産はあっけなく消え去ってしまう。本小説では叔父に代表される成り上がりを、当時、同様に旺盛な消費活動を行っていたアメリカ人と比較し皮肉る場面がある。この表象に関心を持ち、ヘンリー・ジェイムズの_The Spoils of Poynton_に登場する未亡人蒐集家のモデルであるアメリカ人女性蒐集家、Isabella Stewart Gardnerについて研究し、以下の学会発表欄内の海外学会発表を行った。 (3)(2)と関連して、ポンダレヴォー叔父は成り上がり有名になると肖像画を書かせる。19世紀末の消費文化における肖像画の意味を探るべく、ウェルズと関係のあったオスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像画』について研究し、以下の学会発表欄内の国内発表を行った。 (4)上記(1)~(3)の研究と併せてウェルズの小説における表象の分析を行った
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
いざ研究を開始してみると世紀転換期の消費活動の文化史という研究テーマが、研究代表者にとり全く新しい取り組みであると同時に、非常に幅広く漠然としていたため、どこに焦点を絞るのかを決めるまでに時間がかかった。またどこに行けば資料があるのかを検索するのにも時間がかかった。文化史研究に時間を取られて、小説の分析が思うほど進んでいない。 しかしH26年度に消費文化の研究対象を広告で有名な会社の資料に絞り、世紀転換期の広告の変遷と意義について研究することで、本研究における消費文化史研究のターゲットが具体的なものとなった。それによってこれまで個別に進めてきた広告や蒐集活動についての研究により判明した文化史的背景と、研究対象となっている小説の表象について接点や関連性が見えてきたので、これまでより研究のゴールについて焦点が定まってきた。次年度はH26年度の研究成果をもとに遅れを取り戻したい。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度はこれまでの研究結果をまとめる予定である。当初はH.G.ウェルズを同時代の作家であるジョージ・ギッシングとのみ比較検討する予定であったが、H26年度の研究でウェルズの小説はヘンリー・ジェイムズやオスカー・ワイルドの作品とも関係することが判明した。また研究が進むにつれて成り上がってきた下層中産階級出身のイギリス人による消費活動のみならず、新興のアメリカ人資産家による欧米の文化財購入活動との関係も視野に入れると、研究が深まることが判明した。具体的には19世紀末-20世紀初頭のイギリスにおける広告という媒体に付きまとっていたイメージや、凋落が見え始めた英国から文化財を買い集めるアメリカ人との関係において、同じく消費活動によって成り上がろうとする下層中産階級の消費活動がH.G.ウェルズの小説にどのように表象されているのかについて焦点を絞りつつ、論文にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は以下の二つである。 (1)当該科研費申請時には海外発表の時期が不明であったため、旅費を多めに申請していたが、実際には比較的安価なオフシーズンに海外発表の出張が可能となったため、旅費の実際の支出が予想より減額となったため。 (2)H26年度に英語論文を複数本執筆する予定であったが、申請時には予定していなかった国内研究発表が一件増え、それに伴って英語論文の執筆が海外発表分の一本となったために、「その他」項目に計上していた論文投稿準備費を使わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は研究最終年度であるため、当初予定の研究費使用計画を研究の現状に合わせて以下のように再考する。 (1)研究最終年度につき論文執筆が今年度の研究の中心となると予想されるが、研究室で現在使用中のPCに不具合が生じ、PCの買い替えや執筆に必要なソフトウェアのアップデートが必要となっているため、必要が生じれば、次年度に多額の出費がないと予想される「人件費・謝金」項目費に計上した予算を「物品費」に変更し、研究を遂行する。 (2)H26年度に予定していた英語論文投稿を実施できるよう準備を進め、当初予定していた「その他」項目の予算を次年度に使用する計画を立てている。
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