小説家ジョージ・A・バーミンガムを中心に、日本では比較的注目度の低い北アイルランド小説の普遍的意義と価値について研究を行った。バーミンガムの研究に関しては平成27年8月下旬にダブリン大学トリニティ校の古文書研究図書館を訪れ、手紙、エッセイ、新聞記事等を調査し彼の小説の背景の理解に努めた。解明できたことは、ボーア戦争に出兵した弟の事故死や、第1次世界大戦で戦死した友人ラドヤード・キプリングの息子の戦死等、多くの悲惨や苦悩を経験することによって、バーミンガムは人間同士の融和をもたらすには「ユーモア」が必要であることを説く小説を書くようになったことである。またバーミンガムは自叙伝『麗しき土地』(1934)の中で、ウェストポートに司祭として着任後創立した「ウェストポート文学協会」でのトラブルが、アイルランドの政治に関心を持ちナショナリストになるきっかけを作ったと述べている。その事実を確かめるためにキャスルバーのメイヨー県立図書館を訪れ、当時の新聞『メイヨーニュース』の調査に当たったところかなり白熱した討論であったことがうかがえた。平成25年にはアメリカのテキサス大学オースティン校でバーミンガムが最初に書いた短編小説を発見できたが、ともにバーミンガムのその後の小説を論じるうえで貴重な資料となった。 ベルファストでは小説家のグレン・パタソンに会い、最新小説『後は従うだけ』(2014)について質問、討論をした。北アイルランド紛争の中でも最善を尽くして生きていこうとする一般市民を描いたこの小説は、世界中の他の地域や国にも当てはまる普遍的意義を持った作品であることを実感し、平成27年10月の国際アイルランド文学協会大会で口頭発表すると同時に、翌年2月発行の『別府大学短期大学部紀要』第35号の中でも論じた。
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