研究課題/領域番号 |
25370338
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野崎 歓 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (60218310)
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研究分担者 |
佐藤 淳二 北海道大学, 文学研究科, 教授 (30282544)
中地 義和 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50188942)
岡田 暁生 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70243136)
MARIANNE SIMON・O 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (70447457)
塚本 昌則 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (90242081)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際研究者交流(フランス) / ロマン主義 / 啓蒙主義 / 作者の概念 / 作家の誕生 / 詩人の使命 / 文学とメディア / 文学と共同体 |
研究概要 |
平成25年度は①先行研究の調査および分析検討、②重要な作家に関する研究・分析の遂行、③関連文献・資料の収集の3点を目標として研究を開始した。 第1の点に関しては、多くの基礎文献に当たり、これまでフランスを中心になされてきた研究の概略をつかむことができた。またその中で、とりわけバルザック専門家であるジャン=リュイ・ディアズの、作家の「自己生成」をめぐる論考がもつ意義を確認することができた。ネルヴァル専門家であるジャン=ニコラ・イルーズとも緊密に連絡を取り、彼の責任編集により刊行中のネルヴァル全集をめぐって、従来の研究者たちのようにテクストと生を画然とへだてるのではなしに、生を複数化し「ロマン化」するものとしてのロマン主義的作者像を作品解釈の根底に置く可能性を検討することができた。 第2の点に関しては、ルソー、バルザック、ネルヴァル、ランボー、さらにはヴァレリーといった重要作家に関する研究、分析を積み重ね、「個」と「共同体」が切り結ぶ局面において「作者」像が立ち上がってくるさまに注目しつつ、そこにロマン主義を越えて広く文学の在り方そのものを規定する諸条件を見出すべく努めた。同時に、そうした創造過程における自我の変容としての「作者」登場が、ロマン派の時期に限定された現象ではなく、現代にまで引き継がれた事象であることも明確に意識するにいたった。 第3点については、18世紀から20世紀まで、文学に留まらずグローバルな視座のもと、有益な資料の収集に努めた。作家像の進展をうながすメディアとしての美術、さらには映画の重要性も改めて浮き彫りになった。 以上のような活動を根本に据えて、メンバー各自は本研究と直接、間接に結びついたそれぞれの成果を著書、論文の形で広く世に問い、また重要な文学作品の翻訳紹介にも努めるなど、一般読者への発信も活発に行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フランス・ロマン主義の時代を、「作者」をめぐるイメージが際立って重要になる時代としてとらえ、「作者」像の生成を支える文学者と共同体の相互関係を明らかにすること。そして「作者」その人に関する表象を生み出すものとしての作品のメカニズムを分析すること。大きくその2点が本研究の根本的な目的であるが、その目的の実現に向けて、個別的事例に基づき認識を明確化させていくとともに、そこで浮かび上がる諸問題が、まさしく現代にまで及ぶ遠大な射程をもつものであることをはっきりさせることができた。たとえば、作者の生成をはらむものとしてのバルザック小説の在り方は、そのリアリズム的書法を変容させながらも、二十世紀を横断して、今日の作家にまで及んでいる。たとえば現代フランスの注目すべき小説家ミシェル・ウエルベックの長編作品における、「作者」の表象とその「破壊」という局面にまで、バルザック的プロセスは引きつがれていると考えられる。文学史を貫く一つの大きなダイナミズムを浮き彫りにする手がかりを得たという意味で、本研究の達成は、初年度としてきわめて満足のいくものであったと考える。 また、一方で18世紀思想・文学の専門家、他方で19・20世紀音楽研究の専門家の参加を仰いだことにより、ロマン主義をそれに先行する思潮との連続性と断続性においてとらえ直す視座を得たとともに、文学テクストを他のジャンルとの相関性において考え、「作者」像をより一般的に「芸術家」概念と結びつけて考察するための手がかりも得ることができた。それもまた、本研究が当初の計画以上に進展していると判断するゆえんである。
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今後の研究の推進方策 |
批評家や読者による作品の「受容」が、いかに「作者」像の生成、樹立、拡大に寄与したかにより注意を及ぼしつつ、書き手と読み手の対話、そして書き手自身と作品のあいだの対話をとおして新たな表現が切り開かれていくありさまを、さらに具体的に明らかにしていきたい。また同時に、文学のみならず、美術および音楽のジャンルがとりわけロマン派の時代において果たした先導的、象徴的役割の重要さを明らかにし、19世紀的「作者」像にとって音楽家がもった意義を吟味しながら、それとの関連において文学的な「作者」像がもつ特徴を分析する。ロマン主義の時期においては、一方では「ポエジー」「詩人」があらゆる芸術家を主導するイメージを提供したとすれば、他方ではブルジョワジーの夢と欲望を反映し充足させる装置としての「メロドラマ」がフィクションの中核的な形式として進展を見せた。そうした一見乖離した状況の中で、「作者」は、複合的な欲望と理想を具現する存在としてどのように立ち上がっていったのか。歴史的コンテクストを十分に吟味しつつ、見きわめていきたい。 そうした諸問題にまつわる考察を、初年度以上に研究者間の相互討議を重ね、そしてまたフランスをはじめとする各国の研究者たちとの連携を深め、国際的な研究の最前線と連携しつつ、できるかぎりグローバル、かつ領域横断的な視点を導入しながら展開していく。そのために国際シンポジウム等への参加も積極的に行っていきたい。 また共同研究全体の成果を世に問うための講演会、シンポジウム、刊行物の企画も練り上げていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
図書として購入を考えていた物の一部が絶版となって入手できなかったため。 絶版書以外の書籍の購入にあてることとする。
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