計画通り、すでに初年度に開催した展覧会とシンポジウムの成果として、展示の記録と研究論文集である『ダンヌンツィオに夢中だった頃ー生誕150周年記念展(東京・京都2013-14)と研究の最前線』を監修・編纂し、刊行した。さらに、前年度の国際学会での発表を基に研究論文をイタリア語で投稿、イタリアの研究誌掲載が決まっている。
最終年度は、上述の研究成果のまとめを中心に行った。さらに、ダンヌンツィオの受容史に加え、大衆的な読者やメディアを意識したその社会性・政治性に関する研究に発展させるべく、当研究のまとめとして調査を行った。今後、ダンヌンツィオの作家像と詩的言語の独創性が大衆性をもつコミュニケーションの枠に開かれるときにどう変質するのかを中心的な課題とする新たな研究として深化させたい。具体的には、近年の評伝研究などの先行研究を参照しつつ、未刊行資料の調査等により、私信などの言葉にある「レアリズム」と、公的な場における演説や公刊されるテクストの「レトリック」との比較を行い、ダンヌンツィオ的な表現やイメージが定型化されていく戦時下からファシズム期のコミュニケーションや言語使用の問題を考えたい。今回、作家の1910年代の散文テクスト分析と、アーカイブでの自筆書簡の調査を行い、今後の調査方針についてイタリアの研究機関の研究者たちと意見交換を行った。
3年間の研究実績としては概ね当初の目標を達することができ、研究公開・交流としては国内的にも国際的にも大きな実りをあげ、学会等でも高い評価を得た。今後さらに、文学テクストと20世紀の政治的状況や文化・社会現象の関係により視野を広げた研究に展開し、ダンヌンツィオの作家研究から、文学テクスト・言語と20世紀の大衆的コミュニケーションの成立との関わりに関する研究に発展的に進める見通しと、その調査の基礎を築くことができ、非常に有意義な最終年度となった。
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