研究課題/領域番号 |
25370340
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大宮 勘一郎 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (40233267)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ドイツ文学 / 文化研究 / メディア研究 |
研究概要 |
本年度は、情動と技術に関する思想史・文芸史的考察の開始年度として、情動を歴史的に捉え直そうとした思想的事例を比較対照する研究に従事した。当初の計画においては、1800年前後の情動表現に関する考察をよていしていたが、申請採択後にドイツ・ヴァイマル大学の付属研究施設より急遽フェローとしての招聘を受け、そちらにおける研究プロジェクト「記憶の歴史化」の重点が20世紀以降に置かれていたことを受け、当研究の順序に変更を加え、1900年前後の「情動」と「技術」の問題に焦点を当てた。研究実績として、以下の3点を挙げることができる。第一に、「情動」の個人を超えた集合性と、その表現の定型性を実証しようとした美術史家アビィ・ヴァールブルクに関する論考であり、これは英語による講演(Illness and Memory - The Case of Aby Warburg)の形で発表された。これは、ヴァールブルク自身が体験した「病」を「情動」の極端な表現としてとらえ、その発現から治癒に至る過程に「情動」表現の技術として芸術作品の本質を理解する可能性を探るものであった。第二に、ヴァールブルクと比較されるべき事例として、ヴァルター・ベンヤミンの記憶論を考察した論文「プルーストからベンヤミンへ ー そしてその先」を挙げる。同じく記憶のイメージ形成において「情動」の果たす役割を重視したベンヤミンがプルーストの繰り出す様々な形象に技術的なものがいかに関わっているかを考察したものである。第三に、1920~30年代の日本のロマン主義に関する、やはり英語による講演を挙げることができる。これは、情動表現の技術としての文字メディアと日本的情動の「固有性」と呼ばれるもの(例えば「もののあはれ」)との関係を論じた試論である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べた理由から、半年間をドイツ・ヴァイマルの研究施設で研究に従事することになり、そちらで開催される多様な講演会、シンポジウム、ワークショップに参加し、論文作成のみならず、海外の様々な研究者と議論・意見交換を行えた。上級フェロー研究員としての研究業務にやや時間を取られたことは否定しがたいが、当該プロジェクトを進めるうえで貴重な示唆を受け、新たな方法的知見を得ることができたと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
研究2年目として、2014年度には国際シンポジウムないしワークショップの開催を計画しており、時期としては秋季11月~12月を考えている。また、「研究実績の概要」に述べたとおり、研究順序に変更が加わったため、本年度は1800年前後の情動と技術に関して重点的に研究する予定である。具体的には、ゲーテ、シラーら「古典」派の情動論とその変遷と、F・シュレーゲル、ヘルダーリーン、クライストらロマン主義とその周辺における情動論を、当時のメディア技術との関連で考察する。これに加え、「研究実績の概要」に第三として挙げた「日本的情動」とその技術に関する考察を深化させる。また、シンポジウム、ワークショップにおける発表は、研究3年目に論文集として刊行することを計画している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者大宮は、当該科研費採択後に、2013年10月よりドイツ・ヴァイマル大学付属研究施設「文化技術研究・メディア哲学研究所(IKKM)」からの招聘を受け、上級フェローとして現地における研究に2014年3月までの半年間従事した。これによって当初の計画に大きな変更が余儀なくされ、とりわけ資料収集のためのドイツ渡航を念頭に旅費として計上した20万円は、招聘にあたり渡航費の支給を受けたため、消化することができなかった。さらに、6か月という滞在期間に鑑み、現地での書物等の購入は滞在中の研究に必要なものにとどめ、結果として2013年度請求額に残余が生じることとなった。 研究2年目となる2014年度には、研究関連図書の保留分を購入し、当初予定の物品費に充当するとともに、計画に従って海外研究者を招聘し、シンポジウムないしワークショップを開催し、議論と意見交換の機会を設ける予定である。また、日本独文学会の秋季研究発表会(地方開催)、および日本独文学会主催「文化ゼミナール」(6泊7日)への参加を予定しており、旅費はこれらに充当する計画である。
|