本研究においては、情動の歴史的変容過程を、ドイツ文学を事例として考察した。とりわけ、メディア技術が情動の変容にいかなる作用を及ぼしたかに研究の力点を置いた。1800年前後の「感情」の奔出には書字メディアの役割が、1900年前後の「気分」のた方向的な迸出には、写真、映画、グラモフォン、タイプライターなどの音声映像技術メディアの役割が大きい。「感情」は個人の内面の形成要因として、「個性」や「主体」を生み出したが、「気分」は個性をむしろ解体する作用として見出された。2000年前後を画期とするデジタル・メディアの時代においては、情動の非持続性への着目が認められる。
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