研究課題/領域番号 |
25370341
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塚本 昌則 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (90242081)
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研究分担者 |
月村 辰雄 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50143342)
中地 義和 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (50188942)
野崎 歓 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (60218310)
新田 昌英 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (70634559)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フランス近代文学 / 散文 / 語りの声 / 声のテクノロジー / 物語行為 |
研究実績の概要 |
フランス近代文学では、とりわけ1850年代以降、散文による作品が強度としてのポエジーを体現するようになった。19世紀以降、〈小説〉や〈自伝〉という形式がそれ以降の文学の中心的ジャンルとなっているが、現代とではその形は大きく変わっている。〈小説〉、〈自伝〉という枠組み以上に、散文のもつ文学的造形力のほうが重要になってきているのだ。この現状を捉えるために、なぜ散文がひとつの芸術としてポエジーを体現できるのか、という疑問への考察を深めなければならない。この問題をめぐって文献調査を進め、共同討議を重ねるうちに、文学における語りの問題、とりわけ語りにおける声の問題を深めてゆくことが重要であるとわれわれは認識するようになった。 この点について考えるため、2014年4月には、パリ第十大学のウィリアム・マルクス教授との共同研究を開催、さらに早稲田大学の鈴木雅雄教授に協力を依頼し、「声と文学」と題するシンポジウムを2回開催した(第1回目: 9月27日、東京大学文学部、発表者6名;第2回目:12月13日、早稲田大学文学部、発表者9名)。この研究会を通して、近代文学がさまざまなテクノロジーによる知覚の変化によって影響されてきた過程を跡づけることができた。映像(写真、映画、テレビ、漫画)、移動手段(車、列車、飛行機)と並んで、声をめぐるテクノロジー(電話、無線、ラジオ、オーディオ)の進展は、言葉によって表象される世界に根本的な変化をもたらした。「初音ミク」に代表されるボーカロイド(音声合成技術)は、百年前から顕著になってきた音声テクノロジーの延長上にあり、この技術について考察することはそのままこの百年の文学における声の問題を考えることにつながることも明らかになった。 今後はこうした研究会で得た知見を綜合し、文学と声をめぐる考察をさらに展開する準備を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランス文学において、散文が言語芸術の形態として認められるようになったのは、近代になってからである。音の制約、主題の制約、朗読という条件など、さまざまな束縛を受けることで言語芸術としての強度を高めてゆく詩と比べ、散文には原則的に厳しい規定はない。それなのに、なぜ散文が高度な言語芸術のひとつの形式として認められるようになってのか。これはきわめて大きな問題であり、分析を進めてゆくためには、具体的にどのような課題があるかをまず見極めなければならない。 この問題に研究開始当初はフィクション論の展開という形で取り組んだが、すでに抽象的な理論モデルがいくつも提出されている議論をそのまま使うのでは、個別の文学作品を解釈しようとするわれわれの基本的な姿勢とかけ離れてしまうことがわかった。そこでフィクション論の中でも難題である語りの問題に集中して取り組み、20世紀に起こったテクノロジー進展による知覚の変化がもたらした結果の分析と組み合わせることで、この問題に関する知見を深化させることが新たな目標となった。 この課題について、パリ第十大学ウィリアム・マルクス教授の講演会、さらに東京大学文学部、早稲田大学文学部での2回のシンポジウム開催をおこない、この問題に関する知見を深めることができた。これらの研究をどのように綜合し、どのような見通しを新たに構築できるかは、今後の研究にかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで行ってきた講演会やシンポジウムについて、まず活字化を進め、同時にそれらの研究を綜合するどのような視点があり得るのかについて討議を重ねる。シンポジウムでの発表者は次の通りである。 9月27日(東京大学文学部):佐藤典子(九州大学)、塩塚秀一郎(京都大学)、野崎歓(東京大学)、郷原佳以(関東学院大学)、武田はるか(中央大学非常勤講師)、塚本昌則(東京大学) 12月13日(早稲田大学文学部):桑田光平(東京大学)、梶田裕(早稲田大学非常勤講師)、伊藤亜紗(東京工業大学)、熊木淳(早稲田大学非常勤講師)、福田裕大(近畿大学)、橋本一径(早稲田大学)、新島進(慶應大学)、中田健太郎(学振特別研究員)、鈴木雅雄(早稲田大学) これにウィリアム・マルクス教授の講演会、さらにシュルレアリスム研究で中心的役割を果たしてきたCNRS名誉研究員ジャックリーヌ・シェニウー=ジャンドロン先生の講演会の原稿もふくめて論集を作成、その過程で自分たちの課題を綜合的に捉える視点構築の作業を進め、さらに他の研究者の協力も得ながら研究をさらに展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
届く予定だった書籍が届かなかったために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度、予定していた書籍購入のためにこの助成金を使用する。
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