オノレ・ド・バルザックの小説における音楽の役割を、小説で論じられている声や楽器の概念、音楽作品の内容、コミュニケーションや種々の伝達行為における音楽の役割などに着目して分析した。その結果、音楽作品の引用が、小説の登場人物像や象徴の体系の形成、社会的関係性の暗示、書き言葉が表現する言葉の抑揚やそこに含まれる静寂についての考察、コミュニケーションに関する思考などにおいて果たす役割を明らかにすることができた。また音楽作品と小説の言説の重なり合いから複数の読みの可能性が開け、意味の重層性やアイロニーが生まれるプロセスも具体的に見て取ることができた。
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