研究課題
コルネイユやラシーヌに代表されるフランス17世紀の歴史悲劇を対象として、その創作の原理と実際、さらに受容のあり方を探るため、以下のような研究を行った。人文主義が一般読者にもたらす恩恵としての翻訳、概説書、提要など、古典古代の作品を俗語(=フランス語)で享受することのできる環境が、フランス17世紀の悲劇作品の受容の条件である歴史的教養を形成する素地となっていたことを明らかにした上で、悲劇作家が自作の擁護のために主張する「歴史への忠実さ」というトポスが、観客や読者の有する予備知識と作品の主題(=筋立て)との合致を意味するものであったこと、悲劇作家がこの「通念」を十分に意識して創作していたことを明らかにした。その一方で、従来の研究においてアリストテレス詩学の枠内で論じられてきた「真実らしさ」という概念を17世紀の小説と関係づけて考察することにより、フィクションと歴史の関係についてジャンルの違いを超えた共通の関心が存在し、創作に関わるレベルで重要な議論が展開されていたことを示した。特に、1660年代以降の悲劇と歴史小説の共通点として、人物の内面を精密に分析する「モラリスト的」傾向に着目し、フランス歴史小説の最初の成功作である『ドン・カルロス』の作者サン=レアルの著書『歴史の用途』における主張(歴史家は人間の心を解剖し、その複雑なメカニスムを明らかにする存在である)とラシーヌの歴史悲劇における主要人物の克明かつ繊細な心理描写の実践に明らかな呼応関係があることを指摘した。
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Actes de colloques et journees d’etude (Ceredi, Univ. de Rouen, ISSN 1775-4054)
巻: XV ページ: 印刷中