人文主義の成果としての翻訳や概説書などが、フランス17世紀の悲劇作品の受容の条件である歴史的教養を形成する素地となっていたことを明らかにした上で、真実らしさの概念をめぐり、フィクションと史実の混交という問題について、小説と悲劇という異なるジャンルにおいて相似の議論が展開されていたことを示した。さらに、古典悲劇と歴史小説というジャンルの成立期に歴史的教養が果たした役割を検証し、人物の内面を精密に分析するモラリスト的傾向を指摘するとともに、ロマネスク悲劇と歴史悲劇の位相の違いを、英雄小説と歴史小説の差異と比較することにより、より広い文化的文脈において説明した。
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