四年にわたる本研究において、以下の四点が明らかになった。第一に、鴎外の翻訳が、青年期から晩年にかけて、比較的自由な翻訳を行う傾向から、学問的に厳密な翻訳を行うように、次第に変遷していった実態が明らかになった。第二に、鴎外の「翻訳」観の変遷が、明治期ドイツ学の質的変化の中で考察し得る事が明らかになった。第三に、鴎外の翻訳の底本となった鴎外手沢本を収集することにより、鴎外のドイツ語読解と訳文構成の相関を解明し得た。そして第四に、青年期の鴎外の翻訳技法が、原文の配語法をある場合はかなり忠実に踏襲し、またある場合は逆に大胆に日本語化する等、現代に通用する技術を含むものであることが明らかになった。
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