研究課題/領域番号 |
25370354
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
亀井 一 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00242793)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | E・T・A・ホフマン / ジャン・パウル / Ernst Platner / Johann Christian Reil / カロ風幻想作品集 / 人間学 / モチーフ研究 / ドッペルゲンガー |
研究実績の概要 |
E・T・Aホフマンの『カロ風幻想作品集』における形象「旅する熱狂者」、『ドッペルゲンガーたち』の二人の主人公を、ジャン・パウルの『ジーベンケース』のドッペルゲンガー形象と比較分析し、紀要論文にまとめた(『1800年前後のドッペルゲンガーモチーフについて(第II報)』)。ジャン・パウルが社会的批判的、あるいは、神学的なアレゴリーとしてモチーフを使っているのに対して、ホフマンは、ドッペルゲンガーを個人的な、心理的な現象として描いている。『ドッペルゲンガーたち』をホフマンのジャン・パウル諷刺とする読み方も、これまでにない視点である。 E・プラトナー『医師と賢者のための人間学』(1772)と、J・Ch・ライル『精神錯乱への心理療法の適用についてのラプソディー』(1803)についても研究を進めた。プラトナーは、脳と身体をつなぐ「神経液」 (Nervensaft) ないしは、「精気」 (Lebensgeister)の刺激によって心の働きを説明している。ライルは、「神経力」(Nervenkraft) という概念を用いることによって、四体液説モデルからいっそう遠のいている。生理学と心理学の領域を限定し、心身問題については言及しない、と明言している点も注目に値する。 「力」は、同時代の医学、人間学のキーワードだった。9月には、ドイツのマールバハ図書館でテーマに関連する二次文献のほか、電気、磁力、メスマリズムについての同時代の資料を調査した。 本研究成果の一部は、大阪教育大学のオープンキャンパス研究紹介コーナーでもパネル展示し、大学HP(www.osaka-kyoiku.ac.jp/~kenkyo/kenkyuseika/pdf/H26_1/14.pdf)で公開されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度当初に立てた計画をほぼ達成することができた。『カロ風幻想作品集』は、当初計画では研究対象から外していたが(『作品集』所収の『磁気療法師』は、『第二報』で取り上げなかった)、『作品集』へのジャン・パウルが書いた『序文』をめぐる資料集(Jean Paul: Vorrede zu E.T.A. Hoffmann, hg. v. K. Latifi, 2013)が出て、二人の関係を具体的に辿ることができたため、論文にまとめることにした。昨年度読んだ『牡猫ムル』は、語り手論に組み込むことにする。 プラトナーとライルについては、ドッペルゲンガーモチーフとの関連を明らかにしていく必要がある。プラトナーの講義は、ジャン・パウルが聴講していた。ライルの治療報告は、ホフマンが小説の素材として用いている。 オープンキャンパス研究紹介コーナーにおけるパネル展示は、当時、ドッペルゲンガーをテーマにしたマンガが連載されていたこともあって、高校生の関心も集めることができた。 エリンガー版ホフマン全集第二版(1928)を購入した。索引は、不完全ではあるが、ホフマンの引用文献を追跡する手がかりになる。 ドイツでの調査では、ロベルト・シューマンの著作集を入手した。音楽は、ホフマンとジャン・パウルを結ぶもう一つの視点になるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に従って、本年度は、語り手をめぐる研究に当てる。ただし、研究対象を、ホフマンの『悪魔の霊液』に切り替える。この作品は、一人称の語り手のドッペルゲンガーが描かれているという点で、当初計画で挙げた三作品よりも、テーマに適したテクストである。また、同じように語り手の手記という形で、対象化された「自我」を考察しているジャン・パウルの『フィヒテの鍵』との比較検討も課題になる。 『牡猫ムル』については、ドッペルロマンという形式とテーマの関係について考察を進める。 昨年調査したプラトナーとライルについては、論文にまとめる。さらに、メスマリズムも含めて、同時代の人間学、心理学について調査を進めたい。 調査、資料収集はある程度の成果を上げることができたので、成果発表に力点を移す。学会発表への準備を始めるとともに、今年度講義には、研究成果を取り入れる予定である。
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