平成27年度はおもにジョルジュ・サンドの『旅人の手紙』『歌姫コンシュエロ』『ルードルシュタット伯爵夫人』の分析を通じて、18世紀から19世紀前半にかけてのヨーロッパ社会の諸問題がそこにどのように現れているか、旅とイマジネーションの活性化をどのように結び付けているか、それらが最終的に芸術家の越境と理想社会建設のテーマにどのように収斂していていくかを検討した。 平成25年度からの3年間で申請者はサンドと音楽に関する共著書1冊、サンドとスタール夫人についての論文4本を発表し、サンド研究の最前線として世界的に認められたジョルジュ・サンド事典(フランスで刊行)の項目執筆を行い、3回の学会発表を行った。スタール夫人とサンドの作品・書簡中の「国境を越えること」「性を越えること」に関するトピックについて、内容、文体、間テキスト性、文学史上の位置づけや影響関係などを検討することにより、音楽と旅による国家とジェンダーの越境のテーマとその射程を明らかにするのが本研究の目的であったが、それを十分達成したと言える。 平成26年には研究協力者であるマルティーヌ・リード氏(フランス・リール第3大学教授)を招聘できた。彼女は申請者の援助を受けて神戸大学、奈良女子大学、日仏会館、お茶の水女子大学で講演した。お茶の水女子大学での講演に基づく彼女の論文は日本フランス語フランス文学会の学会誌に掲載された。また同年に彼女の著書『なぜ<ジョルジュ・サンド>と名乗ったのか?』の翻訳(持田明子訳)が刊行された。もうひとりの研究協力者である高岡尚子氏(奈良女子大学准教授)は平成26年に著書『摩擦する「母」と「娘」の物語』を刊行した。 申請者および研究協力者による以上のような研究成果は、日本におけるフランスロマン主義研究とジェンダーという面からのフランス文学研究に大きな刺激を与えることができた。
|