研究課題/領域番号 |
25370357
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
吉田 孝夫 奈良女子大学, 研究院人文科学系, 准教授 (40340426)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / 民間伝承 / 近世 / 好奇心 / 奇譚集 / プレトーリウス / アプレイウス |
研究概要 |
1.ドイツの山の精霊リューベツァールにまつわる近世伝承についての論考をまとめた。これは2009年までの基盤研究(C)「近世ドイツ鉱山・山岳伝説の研究」(課題番号19520230)と本研究とを接続する重要な、そして第一に着手すべき課題であった。近世都市ライプチヒの商業・交易的観点、シャーマニズム、異人論などの観点から、山岳他界の伝承群を詳細に分析した。また類似・関連伝承との比較対象の作業として、『古事記』、『日本霊異記』に関わる日本の説話研究の成果を参照した。この論考は、これまで積み上げてきた山岳伝説研究の論文数点と併せて、早ければ26年度のうちに単著として刊行する予定であり、現在出版社と折衝中である。 2.16世紀から18世紀初頭にかけて出版された近世ドイツ奇譚集の古資料から、本研究に関わる代表的なものを数点抽出し、ドイツ語圏各地の図書館・文書館から、PDFデータならびに書籍化した形で取り寄せた。とりわけJ・プレトーリウス、ハッペル、フランツィスツィ、コルンマンらによる代表的な奇譚集を収集した。 3.近世の宗教・魔術観の整理として、編著『啓蒙と反動』(春風社刊)に論考を執筆した。プレトーリウスの奇譚集における迷信観を主題として、中世と近代の過渡期にある社会の中で、奇瑞と不可思議の物語が果たす機能を論じた。 4.本研究の理論的基礎づけの作業として、近世ヨーロッパ文学に核心的な意味をもつ「好奇心」の概念を追究した。キリスト教化以前の古代ヨーロッパにおける好奇心論の起源から、アウグスティヌスの中世的批判、そして近世における肯定的評価への反転という大きな流れを追跡しつつ、近世ドイツに奇譚集を誕生・発展させる源となった重要な心性の特性を叙述した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究は、計画のほぼすべてを達成した。リューベツァール伝承に関する総括的な論考をまとめ、近世の古文献である奇譚集の収集に着手し、さらに2本の論文を刊行した。すなわち奇譚集の代表的著者であるJ・プレトーリウスを中心において、奇譚集の社会的機能と当時の迷信観を叙述した論文、そして近世における「好奇心」概念の再評価と奇譚集の成立との関わりを論じた論文である。 ただしリューベツァール伝承を狩猟伝承の観点から論じる作業については、有意義な着地点を見出すことができなかった。また奇譚集は、そもそも膨大な数の出版物が残されており、その中から適切なものを吟味・抽出する作業には、予想以上の時間を要した。この点、次年度以降での改善を期したい。
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今後の研究の推進方策 |
プレトーリウス、ブロイナーの奇譚集を、ドイツ語圏各地の図書館・文書館から、PDFデータならびに書籍化した形で、さらに徹底して収集する。 また平成26年度以降の具体的な研究課題として掲げている、悪魔伝説の研究に着手する。まずは、近世ドイツの山岳他界観と悪魔観との双方を考えるうえで重要な資料となるJ・プレトーリウスの奇譚集『ブロッケン山のいとなみ』を中心に置き、とりわけ、その中に収められて後世に多大な芸術的影響を与えたタンホイザー伝説を考察する。ヴィーナス山と呼ばれる悪魔的・地獄的な異界が想定され、そこに中世末期の民衆の救済願望、ローマ教皇への批判的意識、宗教改革期の教派間の対立などが織り込まれてゆくこの伝承は、近世ドイツ民衆の心性を探るうえで実に興味深い素材である。これを端緒として、近世ドイツの悪魔伝説を論じるべき典型的な伝承をさらに発掘・抽出してゆきたい。
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