研究課題/領域番号 |
25370357
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
吉田 孝夫 奈良女子大学, 研究院(人文科学系), 准教授 (40340426)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 山岳 / 鉱山 / 伝説 / グリム / リューベツァール / ホレ / タンホイザー / プレトーリウス |
研究実績の概要 |
1.単著『山と妖怪 ドイツ山岳伝説考』(八坂書房、6月)を出版した。これは、このたびの科研費による研究と、これに先立つ2009年度までの基盤研究(C)「近世ドイツ鉱山・山岳伝説の研究」(19520230)との、二つの作業から生みだされた一つの集大成的な著書である。鉱山・山岳という新しいトポス、ならびにドイツの代表的な男女の妖怪に着目し、またグリムのテクストへの束縛から離れ、その原資料に分析を広げることによって、これまでのドイツ民話研究、グリム研究に、新しい問いを投げかけた。 2.訳書、デープラー/ラーニシュ『図説北欧神話の世界』(八坂書房、12月)を出版した。ドイツ民間伝承の起源に想定される北欧神話と、ドイツ文化との歴史的な関係を明らかにする試みである。 3.M・エリアーデ、K・トーマス、N・エリアス、W・ブリュックナー、F・ジェイムソンらの基本的論考を精査し、当研究に関わる重要な視点を抽出した。 4.タンホイザー伝説に関わる論文2点、すなわち「ドイツ・タンホイザー伝承の前近代」(8月)と、「杖と玉匣―ドイツ・タンホイザー伝承の時間観念」(12月)を提出した。グリム『ドイツ伝説集』の原資料であるプレトーリウスの近世奇譚集を分析し、そこからさらに、中世末の民衆歌謡と聖人伝説にまで遡ることによって、それぞれの時代環境における物語の機能を確認した。またヨーロッパのケルト伝承における「歌びとトマス」伝説、ならびに日本・中国における神仙思想的「浦島」伝承との類似性をめぐって、とりわけ柳田國男と三浦佑之の日本説話研究から示唆を得ることにより、ドイツ・タンホイザー伝承における特徴的な時間感覚を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画の内容は、ほぼすべて達成された。近世の民間信仰や生活行動に関わる基本的・理論的著作群を精査し、それに基づいて、本研究の中心的対象である近世ドイツの社会史的環境と、奇譚集という文学的ジャンルへの理解を深めた。単著『山と妖怪 ドイツ山岳伝説考』、訳書『図説北欧神話の世界』、ならびにタンホイザー伝承に関わる研究論文2点を公にすることによって、近世資料をもとにグリムのテクストを相対化・歴史化する試みを継続・深化した。 タンホイザー伝承をめぐる研究論文2点は、近世奇譚集ジャンルの一分枝である「悪魔文学」ジャンルへの接続を成している。これは次年度の研究課題として当初より予定されていたものであり、およそ順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
プレトーリウス、ブロイナー、フランツィスツィらによる近世奇譚集・奇瑞文学・悪魔文学の古資料を、ドイツ語圏各地の図書館・資料館から電子化した形で入手する作業を継続する。 平成27年度からは、奇譚集のなかに大きな位置を占める悪魔伝説に、いよいよ本格的に作業を集中してゆくことになる。ブリュックナー、ミュッシャンブレ、ロスコフらの基本的・理論的著作を精査しながら、宗教改革以後の数十年間に流行した社会現象である「悪魔文学」の分析を進める。そして、この宗教的・文学的伝統のなかで生み出された近世ドイツ最大の小説『ジンプリチシムスの冒険』を最終的な考察の中心に据えながら、近世ドイツ奇譚集と文学的・社会的言説の相互関係を探ってゆきたい。
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