近世のドイツ語圏に流布した「奇譚集」と呼ばれる著作群をもとに、時代の精神史的特徴を明らかにした。世界の摩訶不思議な出来事を集積して読者に供する、16世紀から18世紀にかけて陸続と現れた一大流行の読み物において、アウグスティヌス以来の否定的な「好奇心」観がルネサンス期に価値転換を受け、現世の多彩な現象・事件への独特な関心を生んだことが知られる。具体的にはタンホイザー伝承とアルラウネ伝承をもとに、それらが後のグリム兄弟によって近代的解釈を与えられる以前の、中世末・近世特有の政治的言説と民衆信仰のありかたを叙述した。またこの関連で、近世作家グリンメルスハウゼンの重要性があらためて明らかになった。
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