本研究課題の目的は、文学における「老い」の表象を探ることであった。19世紀以降のフランスには、サンドやボーヴォワールなど、老年を迎えてなお健筆をふるった女性作家が多くいる。彼女たちが書き残した、「女性が老いること」への証言に耳を傾けることは、私たちが否応なく直面する「老い」へのまなざしを鍛え、「これからの時代の老い」の可能性を開くきっかけとなるに違いない。こうした考察を深めるために、本研究は、次の三方向からのアプローチによって成果を得た。 ①女性が老いることについて、男性作家がどのようなまなざしを向けてきたかについて、主に、19~20世紀のフランス小説を中心に検討した。 ②19世紀から20世紀にかけてのフランス女性作家たちが、作中人物にどのように「老い」を語らせているかを検討した。 ③19世紀から20世紀、さらには現代のフランス女性作家たちが、自らの「老い」や母親の老いと死について、どのように語っているかを検討した。その際、フランス以外の国で活躍する現役作家や、研究者らとの「老い」に関する対話や討論の場を設定した。 最終年度の仕上げとして、女性作家たちが自分の老いと死の予行演習とでもたとえるべき自身の母親の死をどのように観察したかについて、幅広く検討した。このことにより、作家自身の「老い」への意識をさらに鮮明にとらえることができるようになり、女から女へという世代間の受け渡しという問題項にも光を当てることができるようになった。また、本研究課題を出発点として、奈良女子大学文学部ジェンダー言語文化学プロジェクト第一回研究会「各国文学研究とジェンダーの交わるところ―恐怖・嫌悪・欲望をめぐって」を開催し、分野を横断するテーマの共有を実践した。さらに、3年間に得た研究成果は報告書「老いる女性たち(へ)の視線:フランス女性作家とその作品を通じて」にまとめた。
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