本研究課題は、フランスの近現代小説に描かれた「老いる女性」へのまなざしを分析し、その特徴と、そこに現れるジェンダー構造を明らかにすることであった。19世紀に書かれた男性作家による小説からは、「老いる女性」に対する強い嫌悪と同時に恐怖が存在することが読み取れた。また、女性自身が書いた作品にも、自らが老いることも含め、軽蔑的な視線が存在することは確かだが、一方で、特に、自身の母親の死を描いた女性作家たちの言説には、女が生きることへの敬意と、母の尊厳を取り戻そうとする意図が見られた。ここに、「老いる」ことの考察をきっかけとして結び直された、女性たちの世代を超えた絆の存在を指摘できる。
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