研究課題/領域番号 |
25370364
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
寺田 元一 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (90188681)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ディドロ / 生理学 / ハラー / 植民地主義 / 啓蒙 / 間テクスト性 / 『生理学要綱』 / 唯物論 |
研究概要 |
本年度はヴァンドゥル写本に基づく版(MayerとQuintiliが版あり)との比較で、『生理学要綱』ドルヴァル写本を検討する予定であった。しかし、典拠調査過程で、ハラーの『生理学基礎』が『要綱』の中心的典拠であることがわかり、しかも同時に、これまでの校訂版における典拠指示の誤りも多数見つけることができた。これはディドロの『要綱』研究では誰も触れてこなかった新たな発見であり、それをディドロ生誕300年を記念するフランス・パリでの国際研究集会L’anthropologie materialiste de Diderot et les sciences(2013年10月)で報告した。ほぼ同じ内容の論文を「『生理学要綱』の間テクスト的読解」と題して、『思想』のディドロ特集号(2013年12月号)に掲載した。今年度の課題として「ハラーの大著を読み進め、それを間テクスト的に読解すると同時に、連関し合うその知の大海とディドロがいかに対したか」の解明を上げたが、その成果の一端と言える。 また、生理学との関係でディドロや『百科全書』における化学を研究する必要もあり、その成果を「『百科全書』と化学」と題して、日本化学史学会研究発表会(年会)のシンポジウム「事典の世界」で発表した(学会誌次号に掲載予定)。 11月にはエクサン・プロヴァンスで「ディドロにおける時間」をテーマに研究集会が開催され、そこで「ディドロにおける自然的唯物論の道徳と時間性と『人類意志』の道徳と時間性」と題して報告した。当初は物理化学的時間と生理学的時間を比較する予定だったが、このテーマの方が興味深いと考えテーマを変えた。報告の内容は参加者の関心を大いに惹起した。 10月に開催されたパリ13大学での招待講演ではディドロの生理学ともに植民地主義に関わる報告を行うことができ、晩期ディドロの政治思想や歴史意識について認識を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まったく予定通りに進んでいるわけではない。『生理学要綱』ドルヴァル写本の研究については当初よりも遅れている。ただし、ハラー『生理学原論』や『生理学基礎』との典拠関係については、画期的な成果を上げることができ、予想外に研究を進展させることができた。 また、ディドロの化学や植民地主義、政治思想など、晩期ディドロを理解する上で不可欠な点について、当初よりも認識を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ディドロが同時代の生理学著作を間テクスト的にいかに活用して『生理学要綱』を書いたかを、まずはドルヴァル写本との関係を中心に検討することが相変わらず中心課題である。その際に、以下の二つの課題を果たすことを当初は上げた。1)ディドロの書法を特徴付けるecriture fragmentaire(Michele Duchet)との関係を意識し、ディドロが自らのテクスト断片に対してもたえず施した間テクスト的介入(晩年では『両インド史』に寄稿した政治経済的断片を別の政治経済的著作に間テクスト的に利用したものが重要)が、『要綱』やその周辺の生理学関係断片、『ダランベールの夢』の異版で、自他の生理学著作に対していかに展開されたかを考察する。これは『要綱』を中心に据えながらも、晩年のディドロの書法・思考法・思想を間テクスト的に総合的に読み直すことにつながる。2)ディドロが書名をハラーのラテン語の大著『生理学原論』(四折版8巻)から採ってきたように、『要綱』はハラーとの関係で読まれる必要がある。もちろんモンペリエ学派やエジンバラ学派などとの関係も重要だが、ハラーの大著を読み進め、それを間テクスト的に読解すると同時に、連関し合うその知の大海とディドロがいかに対し、それに取捨選択編集を施したかを、両テクストをたえず比較しながら検討する。 1)については、多少遅れ気味なので、生誕300年に登場した種々の研究成果にも学びながら、こちらを重点的に研究していく。2)については、実は『生理学原論』よりも『生理学基礎』からディドロは多くをとってきていることがわかったので、方針を全面的に改め、『生理学原論』を読み進める代わりに、モンペリエ学派やエジンバラ学派などハラー以外の著者の生理学書との典拠関係を探ることに重点を移す研究を継続し、現在HPに公開している『生理学要綱』暫定的校訂版の注を充実させ、校訂版の完成に近づける。
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