研究課題
研究実績の要諦は、年度の後期に6ヶ月にわたり、ナント大学の招聘研究者として、ディドロの『生理学要綱』(以下『要綱』)を中心に行った研究にある。当該研究は『要綱』の典拠とディドロのテクストとの関係を探ることで、『要綱』の成立過程を従来以上に明確にし、それを通じて、『要綱』の間テクスト的な読解を深めるというものであった。研究は以下のように進められた。毎週私が『要綱』の10ページほどについて、その典拠を精細に調べた表を作成し、それを元に私が読解(分析)を行う。それを元に、文学人文学部のシュテンガー教授と週一回2時間ほど議論する、というものであった。教授との議論を通じて、ディドロの他のテクストとの関係、研究解釈上の対立点や、新たな典拠のヒントなどが明確になった。『要綱』の典拠調べと分析をすべて終了することができ、それを元に、フランス語で「『生理学要綱』新解釈の試み―間テクスト的読解と校訂版―」という題目で、『要綱』の中心的4主題の三つ―感性、発生、道徳―について、典拠との関係を踏まえた斬新な報告を、パリ・ナンテール大学のコラ・デュフロ教授のセミナーで行った(2017年3月28日)。そこには、著名なディドロ研究者である、レカ・ツィオミス、フランソワ・ペパン、コラ・デュフロなど、10名ほどが出席し、大変好評であった。今回の発表を元に『要綱』の校訂版を作成する予定で、現在、上記のフランスの研究者の力も借りながら、フランスの出版社を探している最中である。また、『生理学要綱』結論部の道徳はセネカと関連し、最近そこに登場するラテン語の詩の著者が17世紀のユマニストHeinsiusであることが発見された。今回、私はディドロとHeinsiusの関係の解明をさらに進め、後者が「ストア哲学讃」という著作を書いており、それを媒介に『要綱』と『セネカ論』の関係を探るという、新規の研究課題を提示できた。
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