最終年度においては、この間のヘブライ語学習の成果によってカツェネルソンのヘブライ語作品をあらためて収集し、その研究・翻訳にたずさわるとともに、ポーランド語学習の成果によってワルシャワを中心とした20世紀ポーランドにおけるユダヤ人の歴史に関するポーランド語資料の研究に従事した。また、11月23日から11月28日にかけてワルシャワに滞在し、ユダヤ史研究所においてカツェネルソンのヘブライ語作品の掘り起こしに努めるとともに、トレブリンカ絶滅収容所跡の記念館において、新たな展示内容を確認して絶滅収容所のあり方についての理解を深めた。それらの研究をふまえて、カツェネルソンのイディッシュ語での戯曲『バビロンの流れのほとりで』第3幕の翻訳を神戸・ユダヤ文化研究会の機関誌『ナマール』第21号に発表し、カツェネルソンのヘブライ語作品『夢と目覚め』の翻訳連載を詩誌『びーぐる』(澪標)において開始した。 研究期間全体をつうじて、カツェネルソンのヘブライ語作品の収集に努めるとともに、カツェネルソンのワルシャワ・ゲットー時代のイディッシュ語作品、とりわけ大きな戯曲『バビロンの流れのほとりで』と『ヨブ』について理解を深めることができたこと、『バビロンの流れのほとりで』の第1幕から第3幕までを翻訳発表できたことは大きな成果と呼べる。また、カツェネルソンの実妹によるイディッシュ語でのカツェネルソン伝を掘り起こすことができたこと、プラハやベルリンでの調査を通じて、東ヨーロッパにおけるユダヤ人の歴史をさらに幅広く捉える視座を得られたことも大きな成果である。 ただし、目標としていたカツェネルソンについての単行本をまとめ切るところまでは行き着けなかった。これについては、本研究全体をつうじて得られた成果をもとに、カツェネルソンのヘブライ語作品のさらなる読み込みを継続しつつ、しかるべき時点で出版できるようにしたい。
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