研究課題/領域番号 |
25370366
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
北見 諭 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00298118)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ロシア思想史 / ロシア哲学 |
研究概要 |
本研究は、「ロシア・ルネサンス」と呼ばれる20世紀初頭の文化高揚期に現れた数人の思想家の思想を検討対象とし、とりわけ第一次世界大戦期における彼らの「世界戦争の思想」を、彼らの認識論や存在論などとの関連で検討しようとするものである。昨年度は、戦時期の思想の検討を行うのに先立ち、検討対象の一人であるセミョーン・フランクの認識論を検討した。それによって明らかになったのは、フランクが同時代の他の思想家とは異なる場所から思考を展開しながらも、最終的には彼らと同じような構造を持つ思想を形成しているということである。 これまでの研究で明らかにしたように、他の思想家たちは西欧の生の哲学の影響から出発し、動的で創造的に生成する「生」という実在概念に立脚しているのだが、それに対してフランクは、生の哲学とはある意味で対立するフッサールの影響から出発し、生成の流れには解消されない超時間的なイデア的なものに立脚して思考を展開する。しかし、このように対極的な地点から出発しながらも、両者は最終的には同じような実在概念に辿り着いている。 生の哲学に影響を受けた思想家たちは、実在を動的で創造的な生と見なしつつ、同時にその実在をカオスではなく、自己を秩序化するコスモスであると見なそうとする傾向を持っている。一方フランクは、時間の流れを超えたイデア的なものから出発しながらも、同時にそのイデア的なものに事実存在の性格を、生成する生命のイメージを与えていこうとする。 ロシアの思想家は、いずれの場合にも西欧の哲学の影響から出発しながらも、ある点でそこから逸脱し、それによって同じような実在概念、動的に生成するものでありながら、同時に超時間的な性格をも併せ持つという、矛盾的な性格を持つ実在概念に辿り着いている。昨年度の研究では、フランクの思想に基づいて、この時代のロシア思想に固有な構造を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、研究一年目にあたる今年度にはセミョーン・フランクの認識論の研究を行う予定であった。その計画に従い、昨年度はフランクの認識論を、おそらくそれに最も強く影響を与えたと考えられるフッサールの現象学との対照において検討したが、フッサールの現象学の研究に想定以上の時間がかかったため、当初予定していたよりも研究に時間がかかったが、しかしフランクの認識論については、年度内に一通りの検討を終え、3月に行われた別の科研費の研究会で研究発表を行うことができた。そうした点で、達成度としては「おおむね順調に進展している」を選択した。 しかし、年度終了時点では研究発表を行った段階であり、それに対応する論文をまだ執筆してない。論文に必要な文献を検討し、論文を執筆する作業はまだ残されている。その意味では「やや遅れている」ともいえるかもしれない。二年目の研究計画にできるだけ早く取り掛かるため、できる限り早い段階でフランクの認識論に関する論文を執筆する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では、二年目以降は、一年半程度の時間をかけてセルゲイ・ブルガーコフの経済哲学を中心とした思想を検討することにしていた。上に書いたとおり、一年目で終了する予定にしていたフランクの研究が、一通りの検討は済ませたものの、まだ論文を執筆するところまではいっていないので、二年目になる本年度の最初の時期はフランク研究の継続に充てることになる。それが終了し、フランクに関する論文を執筆したあと、当初予定していたブルガーコフの研究に移りたいと考えている。 今年度の夏前から一年強の時間を掛けてブルガーコフの思想と、それと関連していると考えられるドイツ観念論からマルクスにかけての思想の検討を行う。そしてそのあと、順調に進めば、今年度末に研究発表を行い、来年度の夏には論文を執筆したいと考えている。 ブルガーコフの思想の検討を済ませれば、今回の科研費研究とその前に行っていた科研費研究を合わせ、ヴャチェスラフ・イワーノフ、ニコライ・ロースキー、ベルジャーエフ、フランク、セルゲイ・ブルガーコフという、当初予定していた五人の思想家の基礎的な研究を終えることになる。そのあとは、残りの二年半の時間をかけて、彼らの思想を中心とした第一次世界大戦期のロシア思想の研究を行うことになる。 昨年度のフランクの研究が少し遅れていることもあり、戦時期の思想の研究に取り掛かる時期が少しずれこむことになるかもしれないので、今の段階では確定的な計画は立てられないが、予定では、ヴャチェスラフ・イワーノフ、ブルガーコフ、ベルジャーエフの三人の思想を中心に、戦争に関わる思想はもちろん、周辺的な問題として、彼らの主体の理論や、近代批判の言説を検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定であった書籍の入荷が遅れたため、予定額との差ができ、それが次年度への繰り越しとなった。 繰り越し分については、予定していた書籍を購入することで使用する。
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