本研究は新約聖書中の重要文書のひとつであるローマの信徒への手紙(以下、「ローマ書」と略記)の釈義的・修辞学的研究である。平成25年度は、基礎作業として、ローマ書のギリシア語本文を検討し、本文批評の方法論を適用して主要写本を比較検討し、研究の基礎となる本文の確定を行った。 他方、ローマ書に関する先行研究を収集して批判的に検討すると共に、ローマ書を書簡論的分析することに努めた。特に、新約書簡をディアスポラ書簡という視点から、検討することを提唱し、ローマ書に適用できることを示して見せた。 平成26年度は、ローマ書の語学的・神学思想の分析に努め、現在の新約学界の論争点の一つである Pistis Iesu Christou の意味について、先行研究と対話しながら、語学的・神学的考察を行い、一定の結論を得た。 平成27年度は、ローマ書全体を修辞学的視点から分析することを試み、演示的弁論の性格が強いことを明らかにした。他方、パウロの倫理思想の中核にある愛の教説についての考察を行った。 最終年度の平成28年度には、パウロの倫理思想への新しい視角として、同時代のユダヤ人思想家アレクサンドリアのフィロンの倫理思想とパウロの倫理思想の比較検討を行った。また、これまで積み重ねてきたローマ書研究の集大成として学問的注解書を書くことを試み、9月に『ローマの信徒への手紙 上巻』新教出版社を刊行した。
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