研究課題/領域番号 |
25370370
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研究機関 | 聖心女子大学 |
研究代表者 |
畑 浩一郎 聖心女子大学, 文学部, 講師 (20514574)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | オリエンタリズム / 19世紀 / フランス文学 / 旅 / 他者 / 異郷 / 文学と共同体 / 異文化の把握 |
研究実績の概要 |
本研究3年目となる平成27年度は、以下の3点を主眼として分析・研究を行った。1. 前2年間の研究で得られた成果を統括することで、「文学的オリエンタリズム」という概念の総体を把握し、そのさまざまな特性を定義づける。2. 「文学的オリエンタリズム」に直截的に関わりを持つ文学作品(旅行記、小説、詩作品)をさらに精緻に選定し、その分析を行う。3. 同時代の政治的、歴史的文脈と、文学創造の関わりについて具体的な例に基づきながら考察する。第1の点については、フランス・ロマン主義時代を中心に考察することで、「文学的オリエンタリズム」の内実は常に変容・更新を重ねる性格を持つという事実を確認することができた。この時代のフランス文学において「オリエント」という土地が惹起するイメージに方向づけを与えたのは、旅行記ではシャトーブリアンの『パリからエルサレムへの旅程』、詩作品ではユゴーの『東方詩集』であるが、後に続く文学者たちはいかにこのふたつのメルクマールに接近し、また距離を置くかということに心を砕くことになる。このイメージの生成・更新のプロセスは文学創造につきものではあるが、とりわけ「文学的オリエンタリズム」の領域では顕著であることが把握できた。この事実は「文学的オリエンタリズム」を一義的に定義するという作業を困難にする一方、文学研究の領域でこの概念が今後切り開いていく新たな可能性を示してもいる。第2の点に関しては、広く文献調査・収集を行い、本研究の観点にとって重要となるいくつかの著作(たとえばポトツキの残したさまざまな旅行記)を発見した。第3の点については、ギリシア独立戦争において、何人かの文学者(とりわけシャトーブリアン)がその文筆活動によって果たした無視しえぬ役割を確認した。またこうした研究を行う一方で、一般読者への発信を行うため、本研究に関わりのある文学作品の翻訳紹介に関する作業にもあたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
18世紀末以来、西洋が行ってきたオリエントを理解しようというさまざまな試みについて、その営為がフランス人の意識に及ぼした直接的、間接的影響を文学テクストの分析を通して探るというのが本研究の目的である。前年度までの研究では、主に旅行記を対象にして分析を行ってきたため、今年度は小説作品に主軸を移して検討を行った。具体的にはポトツキの『サラゴサ草稿』におけるイスラームやユダヤ教の表象、さらには新プラトン主義的な思想が作者独自の解釈を加えられた上で詳述されることの意義などについて考察を行い、この複雑な作品を理解するための新たな知見を得た。また時代区分で言えば、19世紀前半までの文学作品については比較的考察が進んだと言うことができる。オリエントという土地をめぐって、18世紀後半のヴォルネーのような科学的・実証的精神を備えた旅行者と、ロマン主義の文学者たち(シャトーブリアン、ユゴー、ラマルチーヌ、ネルヴァルら)が、いかに性格の異なる眼差しをそそいだかという問題を再検討し、その関心の変化の中に、ナポレオン・ボナパルトのエジプト遠征や、ギリシア独立戦争といった歴史的事象を置き直すという作業を行った。その中でとりわけ現代ギリシアをめぐるイメージの問題が、本研究にとってきわめて重要となることが確認できた。他方で19世紀後半に関しては、研究はまだ着手の段階にある。しかしすでにいくつかの重要な問題提起がおこなわれている。具体的には、この時期に急激に理論化の進む「人種主義」(ゴビノーら)の考え方に関するもので、それが「文学的オリエンタリズム」とどのような関わりを持つかという問題は本研究に新たな地平をもたらすはずである。
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今後の研究の推進方策 |
文学研究の手法として「文学的オリエンタリズム」の歴史は浅い。その可能性と限界を、具体的な文学作品の考察を通して見極めていくことが今後の眼目となる。引き続きポトツキの『サラゴサ草稿』の分析、ギリシア独立戦争時におけるギリシア擁護の気運の立ち上げにシャトーブリアンやユゴーの果たした役割の検討、19世紀後半の「人種主義」の理論化と文学的オリエンタリズムの関わりについての考察を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年11月13日に発生したパリ同時多発テロにより、予定していたフランスでの資料収集ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度中にフランスに赴き、必要な資料の収集を行う。
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