本研究は、ノーベル文学賞受賞作家エリアス・カネッティの文学作品と思想を文学形式、権力論、人物描写の変遷からとらえなおし、これらの変遷と作家本人のユダヤ人としてのアイデンティティの関係を明らかにした。チューリヒ中央図書館にて遺稿・蔵書調査、娘のヨハンナ・カネッティとのインタビューを行い、①カネッティが伝統的な文学ジャンル「キャラクター」を念頭に膨大な人物描写を残した作家であったこと②亡命を余儀なくされたにもかかわらず、オーストリアの戦後の文化政策ではオーストリア作家として高い評価を受けたこと③コスモポリタンを自認し、ナショナリズムに否定的な態度が作品・思想全体に反映されていることを明らかにした。
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