研究課題/領域番号 |
25370376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
高頭 麻子 日本女子大学, 文学部, 教授 (60287795)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Romain BARY / 多国籍 / ユダヤ人作家 / 世界文学 / 越境 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
1.ロマン・ガリの詳細な伝記・先行研究書数冊について、作家のフランス入国以前の幼少期の部分を読み比べた。それらを基に、平成25年8月20日から9月7日(8日羽田着)まで、フランス(パリ)、ポーランド(ワルシャワ)、リトアニア(ヴィリニュスおよびシュヴェンチョニース)に出かけ、作家が幼い頃に住んだ建物や周辺地域、またパリでは晩年の住居付近を調査した。ポーランドとリトアニアは、言語が理解できないため、それぞれ通訳(および町の案内)を頼み、作家の行動の足跡をわかる限り歩き、第1次大戦直後の写真や情報を収集した。 東欧は、研究者が言語を理解できない上、ナチスやソビエト統治により、かなり町も文化状況も変貌しており、作家自身も幼少期について偽りの自伝等を残しているため、足跡を確定するには限界がある。しかし、幼少期の体験、東欧出身のユダヤ人としての体験が、作家の作品や人生に決定的な影響を与えていることは確かであり、成人後に活躍した英仏米などの文化・風土とは全く異質な国々の気候風土や多民族・多宗教と多様な国・政権の支配を受けてきた地域の様子を肌で感じることができたのは、大きな収穫であった。 2.上記の実地調査の報告を、総合社会科学会の学会誌『総合社会科学研究』第3集6号(26号)に、「研究ノート」として発表した。また、直接ガリを扱うものではないが、「越境とリミックスの世界文学」に関する本研究に深く関わる翻訳(マリー・ダリュセック『警察調書:剽窃と世界文学』(藤原書店)が、ようやく刊行された。 3.上記の実地調査を踏まえて、ロマン・ガリの自伝『La promesse de l'aube(夜明けの約束)』の粗訳を行った。 4.ガリの作品、彼の文章を掲載した雑誌類、ガリについての研究書の収集を進め、現在流通しているフランス語文献はほぼ揃ってきたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ロマン・ガリが、14歳でフランスに入国するまでの幼少期については、現地調査と文献調査により、現在できる限り、作家の足跡を検証することができた。とりわけ、現地調査では、その複雑な地理的・歴史的・宗教的な風土に触れられたのは貴重であった。 しかし、ガリの全著作の原点とも言える、自伝『La promesse de l'aube(夜明けの約束)』の粗訳をしてみて、第2次大戦中のアフリカ各地での戦闘のお記述や、ニースの具体的な場所や経験への言及が予想以上に多く、翻訳が容易でないことに気づいた。戦時中のアフリカについての知識を拡充する必要(元々、これは平成26年の研究計画の内容であるが)を感じた。また当初、ニースは知っている町なので、東欧ほど現地調査の必要を感じていなかったのだが、作家の以後の作品や全人生を決定づけた少年期をより深く理解し、同書をより丁寧に和訳するためには、できればニースの現地調査も必要であることがわかった。 ガリ自身の作品や雑誌掲載文、研究書の収集に関しては、フランスの書店・古書店の情報を通しての収集は進んだが、フランス以外の検索エンジンをまだ十分に活用できていないため、英語文献や映画のシナリオ、映画そのもののDVDなどは入手できていない。
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今後の研究の推進方策 |
1.文献収集は、主に英語で発表された作品、英訳された作品、英語の記事について、進める。 2.現地調査については、ロマン・ガリは生涯にわたり、世界中を動いているので、正直なところ、3年間の研究期間に足跡のすべてを回ることは無理なので、残りの2年間で、効率よく回る必要がある。2年間を①地中海近辺と②アメリカ合衆国とに分けて調査旅行したい。 ①作家が幼少期にフランスに入国してから母と過ごし、戦時中に死亡するまで母親が住んでいたニース、外交官として勤務し最初の妻と新婚生活を送ったブルガリア(ソフィア)、2番目の妻と過ごしたマジョルカ島を回る。 ②作家がフランスの国連代表団スポークスマンを務めたニュー・ヨーク、総領事として勤務し、女優の妻とともに映画撮影したり、ビバリー・ヒルズの家に住んだロサンジェルスを回る。 3.これまで研究者は主にフランス語で書かれた作品や、フランスを中心とするヨーロッパにおける作家の在り方を知り、ヨーロッパ的・フランス的な観点から作家を見て来たが、彼のヨーロッパ以外での活動や文化的影響をより広く研究したい。特に、①二人の妻との結婚生活と作品の関係を調べ、彼の作品に表れる愛への渇望と孤独感の理解を深める。②ガリは、いずれも母語でない英語とフランス語で作品を書き、同じ作品を内容まで書き換えているので、同じ作品の英仏語バージョンの比較や、英語作品へのアメリカ生活の影響を分析する。③女優の妻とともに映画製作にも大きく関わった時期があり、映画作品をどれほど収集できるかわからないが、映画と文学作品との関係や表現の差異なども可能なら研究したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
古書を注文した後に、既に在庫がなくなっていたことがわかり、32,064円の次年度使用額が生じた。 探している文献が見つかり次第、入手したい。見つからない場合には、その他の文献収集に加算したい。
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