本年度は2015年に『嘘の思想家ルソー』としてまとめた研究成果をさらに発展させるかたちで調査を進めた。ルソーに関しては、当初の予定通り、自伝的著作における「嘘」の問題を検討した。その結果、『嘘の思想家ルソー』においては付随的にしか触れることのできなかった『告白』第二部に、この主題の重要な変奏が見いだされることを確認できた。『告白』第二部では、「証拠書類」としての「書簡」の刊行の企図が前景化し、また「書簡」の作品内への組み込みが実際に行われている。これまで論じてきたものとは異なる、虚言者の意図の厳密な意味での「証明」が目指されているわけである。この点を集中的に検討した。またこの成果をもとに、本年度『エミール』の精読を続けてきたルソー研究会において、2017年度から『告白』第二部の検討を開始する準備とすることができた。 ルソーの対話者、すなわちルソーの同時代の思想家について研究については、ビュフォン、ディドロ、ラモー、そしてとりわけヴォルテールとモンテスキューの主要作品を対象に調査を進めた。それにより、これも『嘘の思想家ルソー』では扱いきれなかった、いくつかの重要な主題について認識を深めることができた。モンテスキューを例にとれば、『ペルシア人の手紙』がルソーの『新エロイーズ』以上に、真偽の定かではない言説の連なりとして企図されていることを確認できた。さらに「歴史」と「嘘」という問題や、表象芸術における(永遠の主題ともいえる)「嘘」の問題について考察を深めることができた。 ルソー「以降」の思想家についていえば、レチフ・ド・ラ・ブルトンヌといったいわゆる啓蒙のマイナー作家との奇妙な関連性を確認できた。
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