研究課題/領域番号 |
25370379
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
瀬戸 直彦 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30206643)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 養生術 / オック語 / ウスタシュ・デシャン / 『秘中の秘』 / オイル語 / 国際情報交換 |
研究概要 |
研究の準備期間として,2013年3月に発表した「『秘中の秘』覚え書き―その養生術(中世オック語版)について―」(早稲田大学大学院文学研究科紀要,t. 58, 2012, pp.35-56)をもとに,とくに14世紀北フランスの抒情詩人ウスタシュ・デシャン(ca1346-ca1407)の作品における養生術を探った。3月の論文において比較校合した13世紀の韻文の南仏語版(写本は2種類)とそれがもとにした12世紀のヨハンネス・ヒスパレンシスのラテン語版(ショートヴァージョン)と,それを含む13世紀のフィリップス・トリポリタヌスによるロング・ヴァージョンの一部,すなわち養生術としての「シュナミティスム」の部分は,今回デシャンの5作品においては削除され,「半インテリ」層のための短い韻文の養生術としての側面がさらに強調されていることを確認した。 5作品とは,「身体の健康を維持するための著名な教え」(1496番,226行),「ジャン・デマレ氏,ジャン・デ師,シモン・デ・ラ・フォンテーヌ師(高等法院判事)に宛てた書簡詩」(1417番,138行),「疫病に対するバラッド」(1452番,39行),「疫病に対する忠告のヴィルレー」(708番,41行),「疫病についてのバラッド」(1162番,24行)である。この中でとくに重要なものは一番目の作品で,私は「著名な教え」notable enseignementとわざわざ記していることに注目した。春夏秋冬における健康法,とくに胃のもたれやウェヌスの効用について詳述しているのは,明らかに『秘中の秘』を経由した古代医学のヒポクラテース,ガレノスの系譜につらなるものではないだろうか。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
写本のマイクロフィルムなど関連資料の収集と読解,ならびにウスタシュ・デシャンの作品における養生術の研究が初年度の目標であった。 そのうちの資料収集については,イラリア・ザミュネール氏がロマンス語圏における『秘中の秘』の関連写本を精力的に研究しているために,その研究をまず咀嚼検討する必要があった。この作業はおおむね完了し,氏の研究の今後について直接に尋ねるとともに,次年度に私が国際オック語オック文学研究学会で発表する内容をお送りして指示を仰ぎたい。 つついて,ウスタシュ・デシャンについてであるが,その作品数はSATF(フランス中世文学叢書)において11巻におよぶ膨大なもので,それらから養生術に関連する作品を選び出すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度(平成26年度)には,スペインのリェイダ(レリダ)において開催される,国際オック語オック文学研究学会において,発表を行う予定である。 その発表の中において用いるオック語ヴァージョン,その『秘中の秘』の写本の一つ(ヴァティカン,Barb. 312)という写本は,1930年にYole Ruggieriにより校訂されている。これはカタルーニャの写字生によるものらしく,従来より,その言語においてカタルーニャ語法catalanismeが指摘されている。中世オック語写本とその校訂の問題についてその第一人者というべきパリの高等研究院教授ファビオ・ジネリ氏を日本に招聘して,この写本についても教えをあおぎたいと考えている。トルバドゥールの写本の校訂についてだけではなく,最近はVeAg(= Vega-Aguilo)というカタルーニャ色の強い写本を集中的に研究しておられるからである。
|