研究課題/領域番号 |
25370379
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
瀬戸 直彦 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30206643)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 『秘中の秘』 / 西欧中世 / 反女性主義 / オイル語 / ウスタシュ・デシャン |
研究実績の概要 |
2014年度には,主として次の研究を行った。すなわち, (1)大学院の研究紀要において古仏語版の『秘中の秘』の関連文献を論文にまとめること。 (2)6月にはスペインのリェイダ(レリダ)大学で開催された国際オック語オック文学研究学会においてオック語とオイル語におけるこのテクストの伝播を,養生術の部の「シュナミティスム」への言及を検討することにおいて多少なりとも明らかにすること。 前者においては,ジャック・モンフランの論考(1982年)とイラリア・ザミュネールによる写本のリスト化(「偽アリストテレスの『『秘中の秘』におけるロマンス語の伝承ー諸ヴァージョンと写本の目録」,2005年)を土台にして,10にのぼるヴァージョンを検討した。そのうち1-3としてまとめられているヴァージョンはすでに校訂のなされているものが多い。4-8については比較的マイナーなテクストであることから,今回はのこりの9-10のヴァージョンを中心にして,とくにフランス国立図書館所蔵のBnF.fr.1087を調査してシュナミティスムの現れている部分を見つけることができた。これは15世紀になされた二つの英語訳にもつながるテクストで,訳者不詳のものにはフランス語版の名残がうかがわれるものの,ロバート・コープランドによる翻訳ではシュナミティスムがカットされていることが確認できた。そしてこの種の養生術が14世紀の詩人ウスタシュ・デシャンの諸作品に換骨奪胎されて用いられる事実を示した。後者においては,2013年度からのこの『秘中の秘』における,オック語・オイル語作品のシュナミティスムを概観して12-15世紀における女性嫌厭思想との関連を指摘した。これは2015年度中に刊行される報告集に掲載される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題におけるオック語作品に関連する資料収集と研究のとりまとめは2013年度に,オイル語作品については,2014年度に研究紀要論文において,またリェイダ大学での研究発表においてある程度まとめることができた。しかしオイル語作品については,『秘中の秘』に密接に関連するとは必ずしも言えない養生術のテクストがほかに存在するのでその検討を行うこと,そしてシュナミティスムとともに重要なモチーフとなる「毒娘」のテーマについてはいまだ手をつけることができていない。
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今後の研究の推進方策 |
上で述べたことに関連するが,より広い視点からシュナミティスムをとらえてこれを14・15世紀のフランス文学のなかで検討したい。具体的にはシャルル・ドルレアン,フランソワ・ヴィヨンらのテクストを調査するつもりである。その際の指針としては,ダニエル・ポワリヨンの『詩人と王侯』というこの時期の文学を巨視的に,そして細心の注意を払ってまとめた古典的な研究書をもとにテクストを読み直すことである。 またこの課題に密接にかかわりうるフランス国立高等研究院教授のファビオ・ジネリ氏を招聘する計画は氏の多忙もあってまだ実現していないが,引き続きお願いしていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
オック語における文学写本研究と本文校訂において,現在フランスにおける第一人者といえるフランス国立高等研究院第4部門所属のファビオ・ジネリ教授(ロマンス語文献学担当)を招聘する予定であったが,教授の多忙のために本年度はこれが実現しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
『秘中の秘』の写本研究と校訂についてのジネリ教授の学殖は私だけではなく,ひろくフランス語中世写本研究者にとっても有益であろうと考えている。ぜひ今年度に招聘を実現させたいが,それがかなわなかった場合でも,オック語・オイル語作品の写本の関連資料収集に用いることができる。とくにオック語作品の電子資料であるCOM3 (=Concordance de l'occitan medeival)が刊行される予定である。これは,すでに完成しているCOM1, COM2を補うもので,オック語の散文作品までもコーパスとしており,中世のオック語作品の解釈と校訂に欠かせないものである。
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